逆プロポーズした恋の顛末


「ゆーこちゃん?」

「ゆーこちゃんとケンカしたんでしょ?」

「……ゆーこちゃんというのは」


訝しむ所長の視線を受け、言わずに済ませるわけにはいかないと思った。


立見 夕雨子(たつみ ゆうこ)さんです」

「アレと、会ったのか?」

「はい。ぜひ会いたいと言われて。四年前、わたしと尽の仲を裂くような真似をして申し訳なかったと、謝罪されました」

「謝罪……アレが、か?」


余計なことは言うべきではないとわかっていた。
けれど、「あり得ない」と言いたげな所長に、夕雨子さんの気持ちを少しでも理解してほしいと思ってしまった。


「自分は、ひとの気持ちがわからない人間だったと仰っていました」

「…………」

「あのね、ゆーこちゃんは、ぼくとママは会いに来てくれたからごめんなさいできたんだって。でも、おじいちゃん先生に会いにいく元気がないから、ごめんなさいできなかったんだって」


幸生は、夕雨子さんから聞いた話を所長に伝え、保育園では「当たり前」のことをしたらどうか、と提案した。


「あのね、ケンカしたら、二人で『ごめんなさい』して、仲直りするんだよ! 園長先生が言ってたよ。どうしてもごめんなさいって言えなかったら、お手紙にしてもいいんだって」

「お手紙?」

「ゆーこちゃんはもう会えないけど、ぼくのお手紙読んでくれるって言ってたよ! だから、おじいちゃん先生も書こうよ!」

「……でも、ゆーこちゃんは、幸生くんからの手紙しか読まないと思うぞ? それ以外は、破って捨ててしまうかもしれない」


自嘲を滲ませ、そう呟いた所長を怒鳴りつけたのは吉川さんだ。


「夕雨子さんは、そんな人ではありませんっ!」

< 206 / 275 >

この作品をシェア

pagetop