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朝、いつもと変わらぬ時間に起こし、「今日は、おにいちゃん先生と動物園に行くよ」と告げた途端、幸生は奇声を上げて喜んだ。

まだ尽は迎えに来ないと言っているのに、朝ごはんのパンを口いっぱいに詰め込む有り様。

ちょうど歯みがきをしているところに玄関のチャイムが鳴ると、寝癖もそのままに靴を履いて飛び出そうとし、尽に襟首を掴まれて部屋へ逆戻り。

落ち着きのない幸生を尽と二人がかりで捕獲し、宥め、何とか出かける準備が整ったのは九時少し前だった。

幸生は、初めて乗る最新式の国産ハイブリッド車に興味津々で、チャイルドシートに座るなり、尽を質問攻め。
理解できたかどうかは別として、ひとしきり、所長の古い車とのちがいを聞いて満足したあとは、車窓から見るもの、これから動物園で見る予定の動物など、英語では何というのかとひっきりなしに訊く。

この調子では、動物園に着く前に疲れ切ってしまうのでは、と心配したが、快適な車の乗り心地のおかげか、しばらくするとウトウトし始めたので、ホッとした。

三十分ほどうたた寝した幸生は、車酔いすることもなく、突然「トイレ!」と言い出すこともなく、二時間ほどで動物園に到着。

空は晴れ渡り、暑くもなく寒くもない絶好のおでかけ日和とあって、園内はやや混雑していた。


「ライオン! ライオンが見たい!」
「あ、フラミンゴ! フラミンゴがいる!」
「カピバラさんはどこ?」
「モグモグタイムのペンギンさんのところ行く!」


入園ゲートから効率よく順に見てまわる……なんて考えは、幸生にはない。
独自の優先順位にしたがって、動物園の広い敷地を行ったり来たり。

それに付き合うのは予想以上にハードで、あっという間に足が棒のようになる。


「ねえ、幸生。そろそろ……」


ランチは、幸生の興奮がおさまるまで待ってもいいけれど、どこかでひと休みさせてほしい。
そう言いかけた時、前方に見える黒っぽい建物を目にした幸生が、指さした。


「ねえ、おにいちゃん先生、あそこは何がいるの?」