同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
強い絆

 シンガポール行きを決めてからというもの、気持ち一つでこうも違ってくるのだと言うことを身をもって実感している。

 シンガポール行きを私のために断ろうとしていた窪塚も、覚悟を決めたせいか、とっても頼もしくなった気がするし。

 つい最近では、藤堂に会ったことで、嫉妬という恋のスパイスもピリッと効いて、お互いの気持ちも再確認できた。

 少々大袈裟かもしれないけれど、もう何があってもふたりの気持ちが揺らぐことはないような気がする。

 ーーたとえ何があろうともお互いを想い合う気持ちさえあれば。

 それはきっと家族にも言えることだと私は思う。

 そんな想いの中、かねてより予定していたうちの両親への挨拶決行の当日ーー十二月十九日を迎えた。

 おそらく譲おじさんから事前にシンガポール行きのことを聞かされていたのだろう。

 数日前から両親、特に父の様子がどこか可笑しかったような気がする。

 どこまで聞かされているかは定かじゃないが、なんとなくよそよそしいというか、落ち着かないというか、物思いに耽っていたというか……。

 兎に角、何かを知っている風だったのは間違いない。

 もう五分もすれば約束の時間である午前十時を迎えようとしていたとき、インターフォンの聞き慣れた軽快なメロディーが響き渡った。

 向かい入れた窪塚は、この日のために父が社長を務めている『YAMATO』で仕立てたという、オーダーメイドのブラックスーツをパリッと着こなしている。

 同じくこの日のために私が見立てた、ネイビーのストライプ柄のネクタイがなんとも爽やかだ。

 見慣れないスーツ姿の窪塚にときめきそうになるのをなんとか耐え凌ぐ。

 窪塚と顔を見合わせると、窪塚は緊張した面持ちをしているが、表情にも眼差しにも不安の色はなく、なんとしても説得してみせるという、強い意思が感じられる。

 頼もしく思いつつ、窪塚としっかりと頷きあってから、両親の待つリビングダイニングへと足を進ませた。

 因みに、窪塚がうちの家へと赴いたのは、交際を申し込んだ時以来だが、弟の駿とは、以前職場で会ったことがあるので、家族全員との面識はある。

 プロポーズされた日から色んなことがあったけれど、こうして決戦の火蓋が落とされたのだった。

< 55 / 74 >

この作品をシェア

pagetop