一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
 お別れのキスなのか、リセは私の顎をつかみ、唇にキスを落とした。

 ――さよなら。リセ。

 目を閉じ、私はお別れの言葉を心の中で呟いた。
 唇が離れた後も唇の感触が残っていて、忘れなければいけないのに――忘れられないよ。
 リセにキスをされてしまったら、もう誰とも付き合えないし、結婚だってできない。
 彼以上、私の心を支配できる男の人が、この世にいるとは思えなかった。

「なにこの世の終わりみたいな顔をしているんだよ」
「してません……」
「してた」
「してないですっ!」

 リセと過ごす時間が長ければ長いほど、別れがたくなる。

 ――泣き顔を見せたくない。

 顔を背け、うつむいた瞬間、ふわりと漂った彼の香りが、昨日のリセの香りとは違っていることに気づいた。
 爽やかな香りは、ジャスミンとシトロンが香る柑橘系の香水だった。
 
 ――私が知っているって思った香りは、お見合い場所のホテルで出会ったリセの香り。モデルのリセと出会う前に、私はもう出会ってたんだ。

「なんだ?」
「ううん。なんだか、男のリセは香りも違うんだなって思って」
「嫌いか?」
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