片倉が早く起きて会社に行ってしまった日、浅緋は出社してもなかなか業務に集中することができなかった。

『いってらっしゃい』と挨拶することもできなかったのだ……。

 そんな落ち込んでいる様子の浅緋に気づいて、総務の池田が浅緋に声をかける。
「園村さん、お昼一緒に行きませんか?」

 浅緋は少しだけ迷ったけれど、今まであまり同僚に声をかけられたことはなかったし、思い切って一緒に行くことにして
「はい」
と池田に笑顔を向けた。

 池田は昨日、浅緋が槙野に連れて帰られてしまったこともあって、気にしてくれていたようだった。

「園村さん、昨日はごめんね。婚約者の片倉さんに怒られちゃった?」
「いえ……彼は怒ってはいないって言ってました」

 片倉は昨日、怒っているわけではないと言って、そうして、気づいたらキスされていたのだ。
 嫌じゃなかったのに、『もうしません』とはどういう意味だったのだろうか?

「仲直り、できた?」
「仲直り……あの……」

 ん?と池田は優しく浅緋の顔を覗き込んでくる。