僕惚れ③『家族が増えました』
意趣返し
 結局昨夜――というより今朝方か――、理人(りひと)葵咲(きさき)が意識を失うまで抱き潰してしまった。
 今日も朝一から講義がある彼女のことを思えば、良識ある年上の男としては手加減してしかるべきだったのに、自制がきかずに暴走してしまった。
 それほどまでに葵咲が他の男に触れられたことは理人にとって一大事で、冷静な判断を鈍らせるには十分で。

 いつもなら何もしなくても自分から起きてくる葵咲が、今朝は理人が起こすまで目を覚まさなかった。
 泥のように眠る彼女の寝顔を見れば、涙で泣き濡れて目元が赤くなっていて。

 意識を失った彼女を風呂できれいにして服を着せかけたのは他ではない、理人自身だ。
 抱きかかえたまま湯船に浸かっても目覚めなかった葵咲に、理人は正直本当に不安になった。
 さすがにここまで葵咲に無理をさせたのは初めてだったから。
 服で見えないけれど、身体中に理人がつけた鬱血の跡が散らばっているのも知っている。

(ヤバイ。マジでやりすぎた)

 それで、理人自身はどうかというと、何ともないのが我ながら怖い。というか逆にスッキリしているぐらいで。
(僕は葵咲ちゃんに対して、どれだけ貪欲(どんよく)なんだろう)
 いや、貪欲というより――。世ではそれを絶倫というのかもしれない。でも、理人はあえてその言葉は頭から追い払った。

(そもそも――)

 一人の女の子に対してだけ発動するこの性欲を、「性豪(せいごう)」だとか「絶倫」だとかで表すのは何か違う気がして。

 そう、だからやはり自分は葵咲ちゃんに対してのみ、恐ろしいくらいに貪欲なのだ、と理人は一人納得する。
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