・LOVER—いつもあなたの腕の中—
5
 副社長室を出てドアが締まると同時に大きなため息を吐いてしまう。
 生まれてしまった胸の中のモヤモヤが解けず、エレベーターに乗り込むと同時にバッグから携帯電話を取り出し西田さんに電話をしていた。

 夕食の誘いを断ったのは私なのに、無性に西田さんに会いたい気持ちが抑えられなくて。西田さんが電話に出ると同時に「今から会えますか?」と口にしていた。
 そんな私の異変に気付いてくれたのか「まだ近くに居るから、すぐ迎えに行くよ」と言ってくれた西田さんの言葉に甘え、会社近くのコンビニで西田さんを待つ。


 言葉通り数分でコンビニまで来てくれた西田さんの車に乗り込むと、黙り込み下を向いたままの私に何も尋ねず西田さんは車を走らせた。


「優羽、甘いもの好きでしょ? ここのスィーツ美味しいんだって」


 そこは、アンティークの家具が店内に配置され落ち着いた雰囲気で、西田さんがお忍びで来たかった喫茶店なのだと教えられた。
 窓の外を眺めるように向けられた席に隣り合って座り、おすすめのケーキと珈琲を頼む。
 店のスタッフに気付かれないのは、車を降りる際しっかりと変装をした西田さんだからだ。目深に被った帽子とマスク、そして夜なのに怪しげなサングラス姿。多分、本当に怪しい人だと思われたに違いない。
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