コインランドリー

最終夜―後編―

 俺たちはファミレスを出ると、十字路の横断歩道を通り、電信柱に備えられた花束を横目に元コインランドリーの物件についた。
 カップルの不法侵入があってから、監視カメラと警報を取り付けたので、同様の事件は起こっていない。
 俺が鍵を開けると、続いて中村が入る。

「締め切ってたんで、なんかじめじめしてますね。コインランドリー、そこそこ広さはあるんで美容院とか、雑貨屋なんかもやれそうなんですけど」
「立地も良いしな、大手のコンビニでも買ってくれりゃあいいんだが……一番いいのは大手フランチャイズのコインランドリーオーナー」

 外が曇り空のせいか、中は薄暗くかび臭い。ホコリの積もったランドリーと客が座る椅子が並んでる。壁はペンキを塗ればいけそうだが、洗濯機の裏はわからない。
 フランチャイズと契約したオーナーが契約してくるのが一番良いのだが。

「本当ですよね。でも、先輩と同じように考えて、コインランドリー開業しようとした方が例の亡くなった人みたいです。やっぱりここに何かあるのかなぁ」
「だったらなんで、最初のオーナーは昭和の時代からやってんだよ。くだらん」
「どうやら、オーナーは三代目らしいですよ。結構若いうちに亡くなってるみたいで……」
「ふぅん。早死にする家系か」
「さぁ?……この物件が立つ前は一軒家だったらしいんですが、新婚夫婦がお住まいで。
 赤ちゃんも生まれて、理想的な家族だったんですが、旦那さんある時からストーカー被害にあってたんですって。ある日帰ったら、奥さんその女に刺殺されてて……赤ん坊は洗濯機に突っ込まれていたらしいです。
 女は、ずっと旦那さんの帰りを待っててパニックになってる眼の前で首を切って死んだんだとか……その血がコートを真っ赤に染めていたそうです」
「へぇ、そんな事件あったんだ」

 何だよ。
 何が言いたいんだよこいつ、気持ち悪いな。
 つい最近の事件ならわかるが、昭和の凶悪事件なんて俺でも知らないのに後輩の中村が詳しいわけない。そう言うのを好んで調べているんだろうか。

「ここ、忌み地なんですよ。明治時代には日本家屋がありましてね、座敷牢とかあるような旧家ですよ。ここの一人息子はまぁ悪ガキでとにかく悪戯が大好きでした。今は十字路になっている場所の祠に悪さをしまってから、精神を病んでしまった。
 そこから……昔のことですから、世間の目に触れさせないように座敷牢に入れられていました。だけど、ある日食事のときに締め忘れたのか、息子がこじ開けたのかわかりませんが、とにかくそいつは家族を惨殺(ざんさつ)したんです。犯人は自殺。
 それで……戦争が始まって、空襲でこのあたりを焼かれましたね……もちろん、祠も壊されてしまいました」

 興味のない話を聞かされ、段々と俺はイライラしてきた。中村って、オカルト好きな奴だったのか? と言うか、こいつ何時入社したっけ……去年、一昨年(おととし)
 歓迎会をしたような気がするのに全然覚えていない。仕事もプライベートも結構一緒にいたような気がするのに記憶が曖昧で、頭がぼんやりする。
 そういや夜寝る前もいたよな、なんでだ?
 ずっとあの物件に関して話してた。
 
「戦後に祠をもう一度立て直し、十字路から移動してちょうどこのあたり祀ったんですが……結局家を建てるためにまた移動しなくちゃいけなくなって。その業者もう潰しましたが、祠を不法投棄しちゃったんですよねぇ……だから、ここはもう無理なんですよ、先輩。
 ここを担当した人がどうなったか、なんで上司に聞かなかったんです?
 戦争で焼かれ、不法投棄され二回も怒りを買って神様も見捨てた忌み地……いいえ、神様に呪われた地なのに」

 いい加減、止めろよ!
 と声に出そうと思って振り返ったら中村の姿はなかった。
 と言うより中村って誰なんだよ……そんなやつ最初からいなかったじゃないか。
 だったらあいつは誰なんだ……。

 外は雨が降り始めて、開け放っていたシャッターがミシミシと音を立てると一気に下に落ちた。生臭い香りが耳元で漂い、女の笑うめき声のような笑い声が聞こえ失禁した。
 背後が気になるが、そんな事より昼間なのに薄暗くなった奥から、中村が立っていたその場所から怖気立つような濃い気配を感じて動けなくなった。
 

 ――――得体のしれないものが、そこにいる。

END
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