名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
案ずるより産むが易し
おかしい、なんでこんなに痛いんだろう。

私は病院帰りで、先生の見立てでは「あと3日は大丈夫だから家に帰ってね」と言われた帰宅途中にこの痛み。

 これ、やばいんじゃない?

街路樹に縋るようにもたれ掛かり、肩で息をする。
街は、クリスマスイルミネーションが煌びやかに揺らめき、どこか浮かれた様子で皆楽しそう。

そんな中、一人で置き去りにされたように痛みに耐えている。時折吹く冷たい風が、私をあざ笑うかのように頬を撫でて行く。体を冷やさないように、たっぷりとしたコートの襟を立てる。

縋るように木にもたれ掛かった人なんて、酔っ払いにしか見えないのかも。
家まであと少し、だけど、やっぱり、病院に行った方が良い気がする。

谷野夏希と書かれた診察券を取り出し、病院に電話をして、これから行くことを伝えた。
タクシーを拾わなきゃ。

痛みで朦朧もうろうとしながらボストンバッグを持ち直し、フラフラとガードレールの間を抜け、車道に踏み出した。

 「危ない! 大丈夫ですか」
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