旦那様は征服者~慎神編~
プロローグ
高台にある屋敷。
アプローチに、一台の高級車が止まる。

運転手が出てきて、後部座席のドアを開けた。
「慎神様、お疲れ様でした」
「うん、お疲れ様!」

丁寧に頭を下げる運転手の頭をポンポンと撫でて、中に入っていく。

この屋敷の主人・天摩 慎神。

美しい容姿と、柔らかい笑顔。
可愛らしい顔と、少し低い声。

この美しい人は、“異常な征服者”だ。

玄関を開けると、タタタッと足音がして、慎神の妻・莉杏が迎えに来る。

「お帰りなさい、慎神くん」
「ただいま、莉杏!」
包み込むようにフワッと抱き締める、慎神。

「莉杏、カレーの匂いがする」
「あ、慎神くんが食べたいって言ったから、今日はカレーだよ。もうすぐ出きるよ!」
「うん、その前に…」
莉杏の手を引き、リビングへ向かいソファに座る。
そして膝をポンポンと叩いた。

「莉杏、来て?」
「うん」
莉杏は慎神の膝に、向かい合うように跨がった。

「今日ね。とっても嫌なことがあったんだ」
莉杏に抱きつき、胸の辺りに顔を埋めて言った。
「そっか…」
莉杏はそんな慎神の頭をゆっくり撫でる。

「無能な専務のせいで、明日も出勤しなきゃいけなくなったんだよ」
「え?そうなの?」
「ごめんね、だから明日のデートはキャンセルだよ」
「そっか…」
「あ…莉杏、悲しそう……」
「あ、大丈夫だよ!お仕事だもん!しょうがないよ!
でも、慎神くんの体調が心配だな……最近、忙しいから……」

正直、ショックを受けている。
一緒に映画に行くのを楽しみにしていたから。
でもショックなどと言うと、専務がクビになるのだ。
“僕の莉杏を傷つけたから”という、たいしたことない理由で━━━━━

「僕は大丈夫だよ!専務にムカついてるけど……」
「あ、明日お弁当作るよ!慎神くんが、お仕事頑張れるように……!」
「ほんと!?嬉しいな!」
莉杏を少し見上げて、嬉しそうに慎神が言う。
莉杏も微笑んだ。

「うん!あ、夕食準備するね!」
「それよりも!
今日は、変わったことなかった?」
慎神が、莉杏の口唇をなぞりながら言う。

「え?あ!」
「何?」
「慎神くん、ごめんなさい!」
慌てて、頭を下げる莉杏。

「何があったの?」
「今日、宅急便が来たんだけど……
いつもの女性の配達員さんじゃなかったの。
それで……」
「男だったの?配達員」
「う、うん…
ちゃんと確認せずに、玄関を開けちゃって……
慎神くん、ごめんな━━━━うぐっ!!」
グッと、慎神の親指が口の中に入ってきた。

「何を話した?
この口は、俺以外の男と、何を……」

雰囲気、口調、言葉遣い……まるで別人のように変わった。
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