酒飲み女子がどきどきさせられてます
さっそく二人で資料を広げて話し合っていると、廊下を通る社員が室内をちらちら見ているのが気になった。
開いてるブースを探していることもあるので見られることはよくある。
でも、今回はいつもと違う。
歩みがゆっくりになったり、止まったりしてそれとなく、しっかりと中の様子を見ていくのだ。

子犬君が女子とツーショットになっているのが気になるのか?
落ち着かない。なんか、面倒くさいなあ

そんなことを書類を見詰めたままで考えていた。
すると、優子の正面に座っている八木が顔を覗き込んできた。

「香坂さん?そこ、何か気になりましたか?」

優子が書類を見ながら熟考していると思ったようだ。

「!!ごめん、ちょっとぼーっとしちゃった」

八木はふふっと笑い、廊下に目をやった。

「それにしてもさっきから、みんなものすごく覗いてません?」
「うん。八木君もそう思った?」
「はい。見られてる感じが半端ないです。
美人で有名な香坂さんと一緒にいるなんてラッキーな奴は誰だ?!みたいな感じですかね」
「いやいや、子犬君といるのは誰だ?!でしょ?」
「子犬くん?」

八木は眉毛をぴくっと動かした。

「もしかして、子犬君って僕のことですか?!」

(やばい、つい口に出てしまった!大人の男性に子犬とか失礼よね。怒ったかしら?)

焦る優子を八木は見つめている。

「えっと、、、、(やばい、やっぱり怒らした、、、よね。ああ、もう、謝ろう!)はい!すみませんでした!」

優子はがばっと頭を下げた。すると八木は

「わんっ!」
と大きな声で吠えた。

優子がびっくりして頭を上げると、八木は面白そうに笑っていた。
あっけにとられていると、

「ははは。そんなに怯えなくても怒りませんよ。俺、女性社員から『子犬』って呼ばれてるの知ってますし」
「え?そうなの?」

八木は肘をつき少し前かがみになった。そして少し目を細め、声を小さくして

「子犬だと思っていたら大型犬の間違いだったかもしれませんよ。香坂さん、気を付けてくださいね」

と言った。
その表情は今までのふざけた感じと違い、囁きに甘い色気を感じるものだった。
優子は思わずごくっと唾を飲み込んでしまった。

「は、はい」
「しかも、香坂さんの前では狼になったりもしますよ」

八木にじっと見つめられて、優子は更にドキッとした。
早くうつ自分の鼓動に驚きつつも、平静を装って微笑んでみせる。

「そ、そりゃ恐いね、気を付けなきゃ」

自称『大人の余裕笑顔』である。心臓がバックバクなのを必死に取り繕う。
八木は色気顔から一転し、目を大きく開いた。

「あ!信じてないー!」
「いやいや、狼って、、、警戒してほしいの?」
「そーゆーわけではないんですけどー、、、」

今度はふてくされて天井を見ながらぶつぶつ言ってる八木君は何かを閃いて、優子に不敵な笑みを浮かべた。

「ドーベルマンで」
「は!?、、、、ふっ、、、ふっ、、、、ふわっははははははははははは!」

優子はお腹を抱えて笑った!!

「え?なんで?笑いうとこ?今、かっこよく言ったつもりなんですけど」

あたふたする八木にさらに笑えてくる。

「あはははははははははは”!くるしー!!ははははははは!」
「もう!香坂さん!男心がわかってない!!」
「はははは、おと、おと、ふふ、男心って、ふっ、警備しますって?警備しても犬だから!ふははははははははは!」

笑いが止まらない優子を複雑な表情で見ていた八木は我慢できなくなったのか、吹き出し、一緒に笑いだすのだった。

コロコロ表情の変わる八木が「子犬くん」と表される理由が少しわかった気がした。


結局、椅子の場所を替え、ガラスに背を向けるように二人で横並びに座ることにした。
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