鬼弁護士は私を甘やかして離さない

前を向きたい

「真衣ちゃん、この書類を法務省にお願い」

「わかりました。帰りに郵便局に寄ってきます」

私はこの中林法律事務所で事務員として働いているが1人産休に入り、私を含め今は4人がフル稼働している。

斗真と別れて3年。
私は仕事にのめり込みパラリーガルとして邁進している。
周りから合コンに誘ってもらったりするが前向きになれず、あれから恋愛していない。
斗真と別れたことは後悔していない。
でも斗真よりいい人に巡り合えるとはどうしても考えられなかった。

仕事だけは私を裏切らない、と私はコツコツと働き、6年目になっていた。

法務省のあと、文具を買うために寄り道をし、急いで郵便局に駆け込んだ。

5時に間に合ったとホッとしながら郵便局を出るとスマホが点滅していることに気がついた。

ふと目を落とすと久しぶりに美沙からのメッセージだった。

【元気?実はこの度、綾人と結婚することが決まりました。式は9月10日土曜日です。真衣には是非出席してもらいたいな】

え?!
美沙が結婚?!
急な知らせに私はとても嬉しくなった。

美沙には大学の頃から10年、何かあるたび相談に乗ってもらったり一緒に旅行に行ったりと、今ではかけがいのない親友だ。

美沙は綾人くんと大学の頃から付き合いで私と斗真と4人でよく出かけたりしていた。
大学を卒業してからも度々ご飯を食べたりしていたが、斗真と別れてから3年、綾人くんには会えずにいた。

【美沙!すごく驚いた。でもすごく嬉しい!式には是非出席させてね。今から楽しみにしてるね】

そう私は返信すると、スキップしたい気持ちを抑えながら事務所へ戻った。

「真衣ちゃん、こっちの確認お願いできる?そのあと清書して配達証明付きで明日付で郵送ね」

「はい」

事務所へ戻ると仕事をすぐに振られ、その間も電話は鳴り、仕事は増えていく一方だった。私は嬉しいニュースも一瞬にして忘れ、現実に引き戻されてしまった。

今日も事務所を出たのは8時過ぎ。
このところ弁護士先生たちの抱える案件が多く、私たちの負担も大きくなっている。
優秀な弁護士が多く在籍しているが、最近咲坂弁護士がテレビに出てコメンテーターを始めてからさらに仕事が舞い込むようになった。
爽やかな見た目にユニーク溢れるコメント、わかりやすい法律解釈でお茶の間で人気になっているようだ。

「はぁ……疲れた」

1人愚痴りながらコンビニに寄り、お弁当をぶらさげなから帰る日々。
このところ忙しすぎて自炊してないな。
それよりも、今よりもっと近いところに住まないと体力がもたないな。
また引っ越そうかなぁ。

あの時は斗真との思い出を振り切るようにして決めた部屋だけど、この忙しさに加え往復満員電車での通勤はつらい。日当たりもいいし、商店街も気に入っているけれど店の空いている時間に帰ることなんて滅多にない。

次は通勤時間重視にしようかな、と考えながら家へ向かうとスマホが鳴った。
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