エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
予期せぬ一夜の過ち


ブラインドを下ろし、パールホワイトで統一された無機質な部屋に、真剣な空気が満ちていく。

脳神経外科の執刀医である神楽雅史を筆頭に麻酔科や薬剤科、リハビリ科はもちろん病棟や手術室の看護師が集まり、プロジェクターに投影されたMRI画像を元にしたカンファレンスがはじまった。手術を明日に控えた患者の最終確認である。


「今回の症例は失語症と右片麻痺を発症した七十歳の女性です。入院時のCTで左側頭葉に出血を伴う腫脹を認め、意識レベルは傾眠……」


要点を整理した雅史の丁寧な説明に全員が聞き入る。

医療秘書として雅史に仕える海老沢(えびさわ)(かえで)も、彼の説明に熱心に耳を傾けた。

ここは日本でも屈指の神楽(かぐら)総合病院。あらゆる科を網羅し、地域の中核病院として名高い病院である。

大学を卒業してからここで働いている楓は二十六歳。
肩甲骨まである髪をきっちりとひとつに縛る色気のないヘアスタイルだが、派手な部類と言われる顔立ちのおかげか、メイクを控えめにしても地味に見られないのは喜ぶべき点かもしれない。
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