それで、くるみは実篤(さねあつ)に目をつぶるようにお願いしてしまった訳だけど。


 思わず考えなしに実篤の手を握ったら、何故か指を絡めるように握り返されて――。


 途端ドキン!と心臓が飛び跳ねて、くるみは驚いてしまった。

(何なん、これ――)


 実篤のことは優しいお兄さん、という認識だった。

 初めて実篤と出会った日。変な男性に絡まれて危ないところを助けてもらった時には、「何て頼もしい人なんじゃろう!」と感激して。

 両親を亡くしてからこっち、くるみはずっと一人で頑張らないといけない、と思っていたから。

 自分を庇ってくれる存在が現れたことが、心の底から嬉しくて、実篤の存在が頼もしく感じられたのだ。

 その実篤が、祭りでのトラブルをきっかけに自分のことを気にかけてくれるようになったことも、優しいお兄ちゃんが出来たみたいでワクワクしたくるみだ。

 一人っ子だったくるみは、元々兄弟姉妹(きょうだい)に憧れていて。
 何故かくるみのことを〝本当の妹みたく〟無条件に甘えさせてくれる実篤に、ついつい頼りまくってしまった。

 お兄ちゃんみたいな存在の実篤と、何と言うことのないメッセージのやり取りをするのもとても楽しかった。


 そんな、〝兄のように慕っている〟実篤に、パン屋(しごと)とは関係なく、プライベートで自分が作ったものを食べてもらいたいと思ったのは、きっと必然だ。