eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~
「それでは、ハル選手に優勝のコメントをいただきたいと思います! 今のお気持ちはいかがですか!?」

実況の鈴木さんからマイクを受け取る。


「とても嬉しいです。私がアタックウォリアーズを始めて、ヤマトさんと出会って、そのことで色々な憶測が生まれました。世間を騒がせてしまったこと、この場を借りてお詫びします」


私からあの炎上の話題が出るとは思わなかったのか、会場が静まり返る。

「色々な誹謗中傷も届きました。SNSを開くのが怖かったときもありました。……だけど、どんな噂があろうと、私はこのゲームが好きです。たしかに、アタックウォリアーズを知ったきっかけはヤマトさんでした。でも、そこからこのゲームを好きになって、心の底から楽しんでいることに、嘘偽りはありません。そこだけは、誤解しないでほしいんです」

私は深呼吸をする。

「アタックウォリアーズが好きです。私に居場所と熱意を与えてくれたこのゲームが好きです。なので、これからも努力して、楽しみます。本日応援していただいた皆さん、戦ってくれたプレイヤーのみなさんに、心からお礼を伝えたいです」

私は深く頭を下げる。
会場は、あたたかい拍手に包まれた。

「これからも応援してるぞー!」
「ハルさん大好きー‼」

実況の鈴木さんは涙をぬぐう仕草をしながら、コメントしてくれた。

「色々なことがありましたが、それでも今日の大会に出場し、その熱意と強さを示したハル選手を尊敬します。対するツバキ選手も、決勝では見事なムチさばきを見せてくださいましね」

鈴木さんの言葉のあとに、メイン画面の配信で嫌な言葉が流れているのを見てしまった。


『どこが見事なんだw』
『同じ技ひたすらふるのみっともなさすぎてわろた』
『あれなら俺の方がマシ』
『くそ雑魚ですわん!』

会場内でも笑いが起こったのが、嫌でも目に付く。

――ツバキさんの肩が震えている。

私は思わず、鈴木さんのマイクを奪った。

「最後の試合、ツバキさんは選手として、勝てる方法を考えに考え抜いて戦っていたんです。これだけの猛者が集まる戦いで、強い技をふって勝率が上がるなら使って当然です。そのことが責められるのだけは許せません……! 私は直接ツバキさんと戦ったからわかります。ここでツバキさんを嘲笑う人こそ、弱いプレイヤーじゃないでしょうか」

「ハルさん……」

ツバキさんは立ち上がり、私からマイクを取った。

「たしかに、みっともないところをお見せしましたわ。勝負を焦るあまり、待ちにまわりすぎました。西園寺家の嫡女としてお恥ずかしい……。このままじゃ終わりませんことよ。もっと腕を磨いて、ハルさんにリベンジいたします。……今日のところは完敗ですわ!」

そう言うと、マイクを投げるように鈴木さんに返し、ツバキさんは私の方に手を差し出した。

私はその手を握る。

「色々と失礼ぶっこきましたわ。でも、あなたが強いことがわかりました。アタックウォリアーズも、人間としてもね」

「そんな……恐縮です。また戦いましょう。私達、今日がデビュー戦なんですから」

大きな拍手と声援が巻き起こる。

「いい試合だったぞー!」

「ふたりとも本当にすごい選手だ!」

「また戦ってくれー!」

コメントは、ツバキさんへの賛辞の言葉も書き込まれている。

『あれだけのアマプロ倒したのは事実。どっちも強い』
『このふたりはすごい』
『eスポーツでこれだけ女性が活躍した大会も少ないだろう。歴史に残る名試合だった!』
『私、お嬢様のファンになりそう……』

私達は見つめあって微笑む。

「昨日の敵は今日の友」って言うけれど、そのことがなんだかわかった気がした。

真剣に戦い合ったからこそ、ツバキさんの努力がわかる。
そしてきっと、私の努力も彼女に届いている。


「青龍杯、優勝はハル選手という結果になりました! また次回の大会でお会いしましょうーー!」

実況のマイクパフォーマンス。
天井から降る金色の紙吹雪に包まれる。



――これが、人生が変わった瞬間だということに、私はまだ気づいていなかった。
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