eスポーツ!!~恋人も友達もいないぼっちな私と、プロゲーマーで有名配信者の彼~

side:ツバキ

11月になると、さすがに少し肌寒い日が増えてきましたわね。

春菜さんがどうしても、と言うから新しくできたスイーツ店に来ましたが、この店は暖房が効いてないですわ。

春菜さんは美味しそうにラ・フランスを頬張っています。
まるで小動物のようで、可愛らしいですわね。
きっとこのような方は、どんな殿方にも愛されるでしょう。

「それで、最近はどうなんですの?」

「へ? まぁ、普通にゲームしたりお出かけしたり……」

「順調ってことですわね」

春菜さんとヤマトさんがお付き合いしたのは知っています。
気まずそうな表情をしながらも、わたくしに話してくれたのは、きっと春菜さんが私のことを友達と思ってくれたからこそでしょう。

わたくしもヤマトさんに憧れていたことがあるのは事実です。
ゲームでも恋愛でも負けるなんて、わたくしになんたる侮辱! なんてことは思わない。
自分自身でも驚いていますわ。

青龍杯で春菜さんに敗れて、ふたりが並んでいる姿を見たとき「美しい」と思いましたの。

まっすぐに勝利を目指すふたりは、まるで一枚の絵画のなかにいるようでした。

お似合いでしたの。

そのときに、すでにわたくしのヤマトさんへの想いは、アイスクリームのように溶けてしまいましたわ。

アップルパイに乗っているアイスクリームをフォークですくい、口に入れる。

舌のうえでバニラビーンズの濃厚な香りが広がって美味しい。

大衆店だと思っていましたが、なかなか。

「美味しいですわね」

「そうでしょう⁉ 本当にここの果物はどれもみずみずしくて……」

「そうでしょうって春菜さんも初めてここにきたんでしょう」

「いや、そうなんですけど……」

コロコロ変わる表情が面白く、可愛らしい。
ついついイジメたくなりますわね。

と、今日は春菜さんの近況報告を聞かなくては。

「そうそう、いい事務所はありましたの?」


「うん……やっぱりまだ決められない。e-JapanとStarToulからすぐにスカウトきたのは話しましたよね。そのあともSNSを通じて色々スカウトや仕事の依頼が来たんです。ひとりで答えを出すにはちょっと難しいレベルになってきたから、お母さんやお父さんにも相談しながら決めることにしました。あと、学校の先生も」


「まぁ、その方が無難でしょうね。色々な案件に関してはそうなるのもわかりますわ。二位のわたくしでさえも連絡が途切れませんもの」

春菜さんはヤマトさんへの憧れと、ゲームが好きという熱意だけでここまで来てしまった。将来の展望などは考えてもいなかったでしょう。
考えていなかったのは、わたくしもそうなのですが。

春菜さんは小さい溜め息を吐いて、アップルティーを一口飲んだ。

本題に入ろう。

「事務所は別として、春菜さんはどうしたいんですの?」

春菜さんはアップルティーが入ったカップを撫でる。

「それに関しても、考えたんです。……私、やっぱりゲームが好きです。知れば知るほど、ゲームが好きになっていく。好きを仕事にしたいと今は考えています」

「そう。それは良かったわ」

心のなかでガッツポーズをする。

さすがに強要はできませんものね。
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