独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 これが正面で向かい合わせだったら、どんな表情をしてどんな挙動をすればいいのかわからなかっただろう。後ろ抱きで良かった。

 と思ったが、脇腹から胸の前に腕を回し、ゆるく抱擁されるように抱きしめられると、それはそれで恥ずかしい。

 あの日を境に、彼のスキンシップが過剰になったと思う。きっと気のせいではないはずだ。

「手みせて」

 後ろからやんわりと抱かれる状況に照れて俯いていると、短い指示が耳に届いた。声と一緒に首筋に吐息がかかると、また数日前の出来事を一気に思い出してしまう。

 あんなに必死な奏一の表情を見たのは初めてかもしれない。結子の涙を掬って、痛くない? 怖くない? と確認しながら、何度も名前を呼ばれて口付けられると、政略で結ばれただけの関係というのが嘘みたいに思えてしまう。まるで恋焦がれるような声を視線と指遣いに溺れて、とんでもない勘違いをしそうになる。

 熱夜の記憶を思い出して照れていることを知られないように、差し出された奏一の手の上にさっさと自分の手を重ねる。

 その手に指を絡められてギュッと握られた瞬間、結子はまた少し緊張感を覚えた。

「やっぱり手荒れしてる」
「う、ん……この時期は水も冷たいから」

 耳に届いた奏一の声に、それまでの照れも忘れて一気に現実に引き戻される。そして突然申し訳ない気持ちになる。

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