雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
 翌朝、布団の中で、進藤がやけに甘い声で聞いてきた。

「なあ、夏希って呼んでいい?」
「はあ? いいわけないでしょ? なんでいきなり?」
「え、だって、付き合うんだろ?」
「いつそんな話になったのよ!」

 寝ぼけてるの?と私が半眼になると、進藤が焦った顔をした。

(まったく、コイツの考えることって、わけわかんない!)

「え、だって、好きって言ってくれただろ?」
「あれは……!」

 思わず大きな声で言いそうになって、口をつぐんだ。
 
『あれはあんたのモノが好きかどうか聞かれたからでしょ!』
「そっちか……」

 小声で言うと、進藤ががっくりしてつぶやいた。

「くだらないこと言ってないで、さっさと起きて、帰るわよ!」

 調べ物は昨日で終わらせた。
 あとはさっさと帰社して、開発プロジェクトの再考を含めて、課長に報告しなきゃ!

 こうして、いろいろあった出張が終わった。




 
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