極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 色はダスティーピンクで、それに合わせたゴールドのアクセサリーを身につける。

 パーティーに参加すること自体久しぶりで妙に緊張していた。元々ああいった場は得意ではないが、茉奈を妊娠する前は父に連れられ、それなりに様々な催しに顔を出していた。

 たいていそこで結婚相手の候補として独身男性を紹介されるのが定番で、あまりいい思い出はない。

 けれど今回は杉井電産の社長の娘としてではなく、ラグエルジャパンの次期社長である衛士の妻として出席する。

 ぐっと握りこぶしを作って気合いを入れた後、私はおもむろに開いた左手の薬指を見つめた。

 こんな機会でしかなかなかつけられない婚約指輪と先日贈られたばかりの結婚指輪を重ねづけし、他の指より圧倒的存在感を放っている。

 先日、両家への挨拶を経て、私と衛士は婚姻届を提出し晴れて夫婦になった。

 朝霧未亜。なんだかまだまったく慣れないし実感も湧かない。茉奈も朝霧茉奈になったが、本人はあまりわかっていないと思う。

 それでも衛士のことを一度だけ『とーしゃ』と呼んだのは、大きな変化かもしれない。子どもの方が順応性ってやっぱり高いんだな。

 アパートには今、段ボールがそこらへんに積み重なっている。今月末には衛士のマンションに引っ越し、三人で生活を始める予定だ。

 冬物などふだんはあまり使わないものを、このお盆休みを利用して必死に段ボールに詰め込んだ。しかし小さい子どもがいる場合、ここまで荷造りが困難なものになるなんて知らなかった。
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