嘘と、恋。
「俺がまりあちゃんに何もしないのは。
まりあちゃんが若いからってより、俺、セックスが好きじゃなくて。
むしろ、嫌い」

そう笑っているけど、冗談ではないのだろう。


「なんでですか?」


「なんかね、うちの両親、よくそういう事もしてて。
あ、それは勿論、リビングとかじゃなく、夫婦の寝室とかだけど。
壁が薄いのか母親の声がデカイのか、その声が俺の部屋迄聞こえて来てて。
父親に殴られてる時の母親は、いつも弱々しく泣いてたのに。
その時は、豹変したように悦んで喘いでるって感じで…。
子供だったから両親が何してるのかはよく分かってなかったけど。
気持ち悪いって思ってて…。
多分、それ引きずってんのか、無理で。
女の感じてる、声や顔…。
いや、感じてなくても、なんか無理で」


「じゃあ康生さんは…」


「いや。勿論、何度かは経験はあるよ。
この世界入って、俺によくしてくれてた人からそういう女をあてがわれる事もあったし」


康生さんは、私の言いたい事が分かったのか、そう苦笑している。


「けど、昔からセックスしたいと思わないから、
俺、女に惚れるとかそんな感情がよく分からない」

そう聞くと、したいから異性を好きになるものなのか?と、考えてしまうけど。


そういった考え方も、人それぞれだろうな。


「おやすみ、まりあちゃん」


康生さんは、会話を打ち切るようにそう言った。


「おやすみなさい、康生さん」


私はそっと目を閉じた。


多分、私の方が先に眠ったのかもしれない。


夢うつつで、康生さんが私の頭を優しく撫でてくれていた。
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