もう一度、その声が聞きたかった【完結】
10:記憶
病院に着き、救急センターに運ばれた圭介。

私は扉の前で泣き崩れる。

救急車の中で彼は呼び掛けに
答えることはなかった。

看護師が私に近づき、声をかける。

『あなたも傷の処置をしましょう』

私はその言葉で自分も怪我をしている事に
気が付いた。

左腕を見るといつの間にか
救急隊員がしたであろう止血処置がされており
袖が真っ赤に染まっていて
肘下の皮膚がパックリ切れていた。

圭介の姿に動揺して
痛みなど全く感じなかった。

私はそのまま処置室に連れて行かれて
傷口を縫ってもらった。

そのあと念のためにと
全身のCTも撮る。

検査が終わり傷口以外の異常はなく
やっと圭介の元に行くことができた。


病室に入りベッドで眠る彼を前に
呆然と立ち尽くした。

しばらくして医師と看護師がやってきた。

『今の所、命に別状はありません。
頭を強く打ったため脳震盪を起こし
意識障害が出たようです。
頭の傷は10針縫いました。
あと右手首に骨折があり固定しています。
今は脳内に異常はみられませんが
24時間は観察が必要となります。』

「わかりました…ありがとうございます…」

私は彼の左手を握る。

「よかった…」

彼の手の温かさに涙が溢れた。
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