落とし物から始まる、疑惑の恋愛
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 ハルカがスポーツジムへの入会を決意したのは、体重計の数値が過去最大値を記録したためだった。
 ――これはヤバイ。
 いくら残業続きでストレスが溜まっていたとはいえ、さすがにドカ食いが過ぎたようだ。焦って探したところ、自宅から電車で二駅の距離に、良さそうなジムが見つかった。ハルカは、早速訪れた。
「スポーツジムのご利用は初めてですか?」
 受付の女性は、にこやかに尋ねてきた。名札には、笹原(ささはら)とある。
 はいと答えたハルカに、笹原はテキパキとシステムを説明してくれた。設備も整っているし、料金も手頃だ。ハルカは、即座に入会を決めた。
「今日から利用できますか?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
 笹原は、すぐに登録書類を出してきた。記入事項の多さに、ハルカはややうんざりした。住所や電話番号だけでなく、メールアドレスや家族の連絡先まで記入する欄があったのだ。
「大切なお知らせや、万が一の事故等に備えまして」
 笹原は、そんな風に説明した。ようやく手続が終わると、笹原はハルカをロッカールームへ連れて行った。
「今からご利用なんですよね? レッスンには、参加されますか?」
「はい。エアロビの六十分レッスンに、参加しようかと」
「六十分のクラスですね」
 笹原は復唱すると、親切にも空きロッカーを案内してくれた
「この位置が、スタジオに近くて便利ですよ。番号は、五十六番です。では、お楽しみください」


 その翌朝、ハルカは機嫌良く出勤の準備をしていた。昨日参加したエアロビのレッスンは、とても楽しかったのだ。おまけにメンバーは、同年代のOLばかりで、互いにすぐに意気投合した。レッスン後は、早速一緒に飲みに行ったくらいだ。
 ――ジムって、楽しいじゃん。
 ウキウキしていたハルカだったが、バッグを開けてぎょっとした。財布が見当たらないのだ。
 ――ウソ、失くした? どこで?
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