落とし物から始まる、疑惑の恋愛
3
 程なくして、君島からメッセ―ジが来た。是非会いたいのだという。警戒しながら待ち合わせのカフェを訪れたハルカだったが、君島は実に紳士的な男性だった。ハルカより二歳年上の、会社員だという。
「無事お手元にわたって、よかったです。帰宅途中に拾いましてね。すぐ交番に届けたんですよ」
 君島は、にこやかに微笑んだ。最近人気の若手俳優に似ている。雰囲気も優しそうだった。
「ありがとうございます。助かりました」
 ぺこりと頭を下げると、ハルカは報労金の件を切り出した。だが君島は、意外にも固辞した。
「そういうわけには……」
 ハルカは困惑した。会おうと言い出したのは、それが目当てではないのか。すると君島は、ちょっとためらってからこう告げた。
「気を悪くしないでいただきたいのですが、実は財布を拾った際、あなたの免許証を拝見したんです。おそらく近所の方だろうから、直接お届けしようと思って。ところが若い女性だったので、それはまずいと判断し、交番に持って行ったんです」
「そうだったんですか」
 やや不安になったハルカだったが、君島はこう続けた。
「本来は、届けるだけで、謝礼をいただくつもりもありませんでした。でも、あなたからお手紙をいただいて、考えが変わりました」
 君島は、ハルカの目をじっと見つめた。
「免許証のお写真が、忘れられなくて。是非、お会いしたかったんです」
 ハルカは、えーっと思った。
 ――それって……。
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