ずっと探していた人は
努力と才能
「由夢」

朝、校門で見慣れた背中を見つけ、声をかける。

「お、加恋、おはよっ」

私の声に由夢が振り向く。

「今日も暑いね」

「ほんと暑い」


つい最近長袖のシャツから半袖のシャツに変えた由夢が、うんざりした顔で言った。

6月下旬。どんよりした天気が続く梅雨も終わり、本格的な夏が近づいてきた。

「なんていうかな、もっとカラッとした暑さが欲しい」

教室について自分の席に荷物を置いた後、風を求めて下敷きで仰ぐ由夢に同意する。

「あー、わかる」

今の暑さは、ジメジメだ。梅雨も終わったのに、まだ湿気が私たちをまとわりつく。


「おはよ~!」

由夢と昨晩見たテレビ番組の話をしていると、徹の元気のいい挨拶と共に朝練を終えた野球部3人が教室へ入ってきた。

「おはよ~」

「お疲れ様~」

私たちの隣で荷物をおろし、疲れた様子で椅子に座った野球部3人にねぎらいの言葉をかける。

1か月前、中間テストは無事終わった。

直前の2週間で集中的に詰め込んだおかげで、私たち5人とも、とりあえず赤点を取るのは防げた。

もっとも徹と由夢は、全教科赤点ぎりぎりだったけれど、それでも一応欠点は免れた。

「みんなお疲れだね~」

由夢が下敷きで3人に風を送る。

中間テストという一つの大波を共に乗り越えた私たち5人はグッと仲が深まり、教室にいる時間はほとんど一緒に過ごすようになっていた。

「ここ最近の練習はマジで体力が持たないな」

滅多に弱音を吐かない中川くんが、真剣な表情で訴える。

「そんなに練習きついの?」

私も由夢に加わって、みんなに風を送りながら聞く。

「うん、夏大が始まるからなあ」

「そっか、もうそんな時期なんだ。確かにもう梅雨も明けたもんね」

へえ~と言った私に、由夢は、夏大ってなに?と尋ねた。
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