青に染まる
 そんなときは何をしているかといえば、薔薇(バラ)(とげ)を取る作業である。

 これはわりと重要で、花屋の品位を左右するといっても過言ではない作業だ。

 花の中でも最も人気のある薔薇は、その美しさの影に棘を(はら)んでいる。自然界を生き残るためという(いわ)れだ。

 そんな薔薇を売るに当たって、棘を取るのは常識中の常識だ。

 それに薔薇を花贈りに使う人はきわめて多い。なぜなら薔薇が人気であると同時に、有名だから。

 薔薇そのものが「愛」という言葉を表すこともあるし、色によって意味が変わってくるし本数によっても変わる。

 そんな詳細まで全てが一般的とまではいかないが、薔薇が愛の象徴であることは間違いない。

 しかし、人に贈る花に棘がついていてはいけない。

 触れたら傷つくというのは当然であるが、相手に「棘がある」という意味を与えてしまう。内面的に棘があると言われて、心地よい人はなかなかいないだろう。

 故に棘は取っておかなければならない。誰かに正しく愛を伝えられるように。

「痛っ……」

 薔薇の棘を刺したわけではない。長年花屋を営んでいるのだ。今更そんなミスはおかさない。

 痛んだのは、胸。

 何故だかわからないけれど今、愛という言葉に胸がひどく痛んだ。
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