イタリアから出られない!
スケッチブックには、シルエットが海に浮かんで幻想的な美しさを持ったサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会や、ベネチア映画祭の会場として有名なドゥカーレ宮殿、美しい街並みを一望できる鐘楼など、たくさんの素敵なスポットが描いてある。そして、スケッチブックを開くたびに、その時に感じたことを思い出すんだ。

「よし、描こう!」

鉛筆を取り出し、描く建物をしっかりと見てスケッチブックに描いていく。建物の持つ美しさ、繊細さ、それらを決して絵であっても失わないよう、何度もじっくり建物を見て描いていく。

建物を半分ほど下書きを終えた頃、固まった体をグッと伸ばして休憩していると、「ねえ」と声をかけられる。振り向けば、背が高くて整った顔立ちの男性がいた。

「君、何してるの?」

「絵を描いてるんです。とても綺麗だから」

私がそう返すと、男性はグッと距離を縮めてきた「君の方が綺麗だよ」なんて言いながら私の隣に腰掛けてきた。イタリア名物ナンパかな……。
< 2 / 15 >

この作品をシェア

pagetop