やわく、制服で隠して。
「確かに、娘達がしたことは褒められたことじゃありません。」

おじさんはゆったりとした口調で話した。
深春は目を伏せて静かに聞いている。

「ただそれを、成長の過程だと思って、私達親は見守りませんか。」

おじさんがパパに問いかける。

「見守る…?」と、パパが小さい声で繰り返した。

「娘達の今回の行いや、以前のまふゆちゃんの交友関係が良くないことだと分かっているのは、私達が二人にとって人生の先輩だからです。ですが我々だって何も間違えないで今日まで生きてきたわけじゃない。」

「それは、その通りです。」

「大きな失敗も、くだらない間違いも覚えていられないほど繰り返して、その経験を子ども達に教えてあげることが親のやるべきことだと、私も妻も思っています。許すとか許さないじゃなくて、一歩道を外れてしまったのなら正しい道へ連れ戻してあげる。一緒に道に迷うこともあるかもしれません。そしたら一緒に地図を広げて、正しい道を探せばいい。」

「父さん、それはクサ過ぎる。」

「本当ね。何かのウケウリかしら。」

静かに聞いていた深春が茶化して、深春のお母さんも笑いながら紅茶を飲んだ。

私とパパは笑っていいのか分からずに顔を見合わせて、パパがありがとうございますって言った。

「深春もまふゆちゃんも、反省はしなくちゃいけないよ。」

「はい。」

「うん。父さん、母さん、おじさんもごめんなさい。」

それから、空気を和らげるように深春のお父さんが旅行先で電話を受けた時のことや、今回のことを面白おかしく話した。

私達の担任は深春の家に電話をかけていたけれど、繋がらなかったこと。
だから先生達が所有している仕事用の端末に登録されている緊急連絡先から、深春のお父さんのスマホに連絡が入ったこと。

おかしいなって思って後から深春に聞いたら、深春は“邪魔されたら嫌だから”、家電の電源に繋がるコンセントを抜いていたらしい。

だけど先生達が所有している端末のことや、緊急連絡先のことまでは考えていなかったから、深春もびっくりしたって苦笑いした。
おじさん達は「詰めが甘かったな」って笑った。

空気が和んでホッとしたら、緊張が解けたからかトイレに行きたくなって、断りを入れてからソファから立ち上がった。
本当に、私って情緒が無いよなって思った。

お手洗いを借りて、お風呂の脱衣所の洗面台で手を洗っている時だった。

「まふゆちゃん。」

唐突に背後から名前を呼ばれて、ビクッと肩が跳ねる。
深春のお母さんが脱衣所の扉の前で、微笑んでいる。
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