あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる

いつもはお弁当の私だけれど、今日は久しぶりに社食に来ている。

ここの所、何かと忙しく、お弁当の総菜を買う暇が無かったのだ。


社食のメニューの中から、私はスペシャルランチのシーフードドリアを選んでみた。
ご飯の上のホワイトソースには、魚介の具が入っている。
エビ、イカ、ホタテなどがゴロゴロとホワイトソースから顔を出している。
さらに、その上にはチーズが乗せられ、焦げ目が付けられていて美味しそうだ。

私は料理をトレーに乗せて、空いたテーブルを探すが、かなり混雑している。
どうしたものかと、キョロキョロとあたりを見回した。

すると、後ろから誰かが私の名前を呼んでいる。


「伊織さん!こっち…こっち、空いてるよ!」


私は驚き振り向くと、そこには笑顔の鳴海裕也が、大きく手を振っている。
鳴海は大きな声を出しているため、周りの人達も彼に注目している。
これだけ皆に見られていては、知らないふりは出来ない。
私は、渋々と鳴海の呼ぶ方へ向かって歩き、同じテーブルに向かい合わせに座った。


「偶然だね!僕も今日はシーフードドリアにしたんだ。僕たち気が合うのかもね。」

「…たまたまです。」


私が小さな声でボソッと答えると、鳴海は少し悲しげな子犬もような表情をした。


「…ねぇ、僕のこと嫌いですか?」


鳴海の企みかも知れないが、こんな表情をされたら突き放せなくなる。


「嫌いも何も…私はあなたのことを、良く知りませんし…それになぜ、私の名前をご存じなのですか?」


鳴海は急に明るい悪戯っ子のような表情をした。


「もちろん伊織さんが、可愛いからだよ。お友達になってくれませんか?」


この男は何を言っているのだろう。
しかし、キラキラと表情を変える瞳や、悔しいほどに爽やかな笑顔に目を惹かれる。


「お…お友達ですか?」


私が唖然としている間に、鳴海は驚くようなスピードで食事を済ませると、急に立ち上がったのだ。


「営業は早食いなんだよ。お行儀悪くてごめんね…申し訳ないけど、午後一番で会議なんだ。…桜ちゃん、お友達として、これからよろしくね。」


鳴海は最後に私に向かってウィンクをすると、軽やかに去って行ってしまった。
…なんて自由な男なのだろうか。

自分勝手な男だけれど、なぜか鳴海のペースに飲まれてしまう。
秘書課の絵里が言っていた魅力は、こういう事なのだろうか。

< 78 / 119 >

この作品をシェア

pagetop