敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
新婚生活



 今年も残すところあとひと月となった十二月第二週の木曜日。

 ネイルサロンの定休日を利用して、匡くんのマンションに引っ越しをした。

 売りに出していた実家は思っていたよりも早く買い手が見つかり、年明けには売却する予定になっている。

 母と兄家族が暮らす新居はまだ完成していないけれど、それまで母は兄家族のマンションに暮らすことになり、私は匡くんのマンションでの暮らしが始まる。

 結婚をすることもお互いの親には報告済みだ。

 もちろん本当のことは打ち明けられないので、普通に恋愛結婚ということにしてある。突然の報告に、どちらの親もかなり驚いていたけれど大賛成してくれた。

 特に私の母は涙をぽろぽろとこぼして喜んでいた。

 離婚した私のことを心配していたから、兄の親友であり、子供の頃からよく知っている匡くんとの再婚は涙が止まらないほど嬉しかったらしい。

 けれどただひとつ、母は私がバツイチなのが気になったようで、それでも本当にいいのかを匡くんに確認していた。

 それに対して匡くんは『まったく気にしていない』と、答えてくれたのだ。


『それよりも、子供の頃からの付き合いとはいえ再会してすぐに交際を始めて結婚まで決めてしまうという急展開ですみません。俺はずっと杏のことが好きだったから、早く俺の妻にしたかったんです。必ず俺が幸せにするので安心してください』


 匡くんの言葉に母はポッと頬を赤らめて『匡智くんはそんなに杏のことを想ってくれているのね』と、感激してまたぽろぽろと泣き始めた。

 それが彼の本心ではなく、結婚報告用のセリフだと知っている私ですらドキッとしてしまったほどだ。
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