隠された彼の素顔
スーツアクターは俺の要塞

 涙が綺麗だと思った。小雨が降ってきても、彼女はステージを眺めたまま、動かなかった。

「どうされましたか?」

 傘を差し出すと、彼女は俺を見上げた。

「ヤダ。ごめんなさい。ぼんやりしてて」

「隣、座って大丈夫ですか?」

「え、ええ」

 ここは、住宅展示場の特設会場ステージ前。つい先程まで、戦隊モノのショーをやっていた。

 ショーの間はなんとか雨は免れて開催したものの、終わりと共に雨が降り始め、恒例の子どもたちとの握手会は中止になった。

 濡れないうちにと足早に帰っていく親子連れの中で、彼女だけステージを見つめたまま。
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