儚く甘い
家に帰った達哉。
広すぎる家のキッチンで、水を飲む。

誰もいない家。
両親はとっくに離婚をして、幼いころから父と兄と三人で暮らしていた。

でも、兄が亡くなってからは父はほとんど家に寄り付かなくなり、どこかの知らない人と過ごしていると風の便りできいた。
母もすでに違う家族を作っていて、滅多に連絡もよこさない。

達哉は水の入ったコップを手に、リビングの隣にある部屋に入る。
そこには兄の遺影や生前使っていたものや写真がある。

コルクボードに飾られた兄の写真に写る一人の女性。
幸せそうに笑っている二人をじっと見つめる達哉。

今は亡きその二人。

達哉はそっとその女性を指でなぞる。
彼女との約束を果たすことだけを考えて生きて来た。

絶望に命を投げ出そうとしてもできなかったのは、彼女との約束があったからだ。
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