儚く甘い
エレベーターが5階で止まる。

そして、病室の扉の前で隆文は足をとめた。

「妹は手術で脳に後遺症が残った。重い記憶障害で過去の記憶はほとんどない。家族のことも忘れてしまっている。人の顔を認識することが今のみわには難しくて、雰囲気とかやり取りで何となく、俺と裕介、母のことはわかるみたいだけど、家族だとはわかってない。”家族”という概念の理解をすることも難しい。」
「早く、会いたい。」
隆文がまだみわの状態を説明しようとしていても、達哉は言葉を遮った。

どうだっていい。

どんなみわだっていい。

その姿を早くみたい。
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