a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
3
 朝食を済ませたあと、昨日買ったお菓子を持って海に向かう。

 今日も周吾と約束をしているが、彼は丸一日の勤務を終えた後だし、夕飯を一緒に食べるくらいかもしれない。

 それにしても、彼はどうやって私をその気にさせるつもりかしら……。あの言葉を信用してるわけじゃない……別に期待しているわけじゃないのよ……。なのにどうしてこんなに気になるんだろう……。

 歩道から市街の方へ目をやる。消防署はここからすぐだって言っていた。

 約束しているわけじゃないのに、彼が来ると信じているし、早く来ないかなって思ってる自分に少し驚いた。

 砂浜を踏み締めるように歩いていくと、背後から名前を呼ぶ声がする。ただその声は那津が望んでいたものではなかった。

「那津!」

 振り返るな、と本能的に感じる。背筋が凍り、怒りが込み上げてくる。

「那津! おい那津ってば!」

 肩を掴まれ、ぐいっと強く引っぱられる。そこには怒ったような目で那津を睨みつける元カレの貴弘(たかひろ)が立っていた。
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