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昔のまま
蒼君の住むマンションの部屋に来るのは、これで三度目。


相変わらず、広いリビングだな、と思う。


「これから、この部屋で好きに過ごしてくれたらいいから」


蒼君はソファーに座り、私を見上げると、こちらに来いと言うように、私の手を掴む。



私は荷物を床に置くと、蒼君の横に座る。


「蒼君、後で色々と案内して。
お風呂場は分かるけど、他の部屋とか」


この蒼君のマンションの部屋、3LDKくらいあるのかな?



「うん。殆ど使ってない部屋あるから、それ未希の部屋にしろよ。
後、仕事もしなくていいから。
未希のあのワンルームマンションの家賃もそうだけど、生活費くらい、俺が出す」


此処に来る道中のタクシーの中で、
蒼君には昼の仕事もしていて、最近辞めた事も話した。


その辞めた理由は、蒼君との事で現実逃避がしたくて夜の仕事を頑張ろうと思ってだったのだけど。


それは話さず、父親の事件の事が職場で知られて居心地が悪くて、と、話した。



「未希、もう大丈夫だから」


だから、蒼君はもう働かなくていいと、私に言ってくれるのだろう。


また働いて、誰かと関わり、また父親の事で私が苦しまなくていいように。



「蒼君は、私はこうやってずっと隠れて暮らしていけばいいって思うって事だよね」


そう、言葉にしてしまった。

ちょっと、私ひねくれているみたいだな。


蒼君が私の事を思って、そう言ってくれている事は分かるのだけど。


何かが、違うと感じていて。


「だって、もう未希だって嫌だろ?
父親の事で、今まで普通に接して来てた人間が、急に態度変わったり。
やっぱり、犯罪者の家族には、誰も関わりたくないから、仕方ないといえば、仕方ないのだろうけど」


「うん…」


昔、この人だけは、私に普通に接してくれていたけど。


けど、私に対して思っている事は、他の人達と変わらなかったんだな。

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