婚約者の執愛
タブー
「じゃあ、行ってくるね!」
「はい。行ってらっしゃいませ」

次の日。
仕事に出かける律希を、玄関で見送る舞凛。

「スマホ。
ちゃんと、首にかけててね!」
律希は軽くキスをして、頭をポンポンと撫でて出ていったのだった。


リビングに戻り、ネックストラップをつけた。
もう、失敗はできない。

律希のメッセージの受信時間を見ると、きっと律希が送って一分以内に返信しないと怒らせてしまう。

舞凛はスマホを握りしめた。


舞凛が肌身離さずスマホを持っていることを確認するためなのか、ことある毎に律希からメッセージが入ってくる。

『舞凛、今何してる?』
「洗濯物干してました」

『舞凛、お昼は何食べたの?』
「昨日の残りのオムライスです」

『舞凛、大好きだよ』
「はい。ありがとうございます」
『好きって言って?』
「好きです」
『ほんとに?』
「はい」
『なんか、言わさせた感があるね』
「そんなことないです。好きです、律希様」

「まずい…怒らせたかな?」
ピタッと返信がなくなり、不安になる舞凛。

正直、律希のことが“好き”なのかわからない。
律希の愛が重たすぎて、押され気味の舞凛。
つい、メッセージに本音のようなものが出てしまった。

「とにかく、機嫌を損ねないようにしないと……」

舞凛は、再度律希にメッセージを送った。
「少し、声が聞きたいです。
時間がある時に、電話ください」

すると━━━━━━
一分も経たない内に、電話がかかってきた。

「もしもし」
『舞凛!声が聞きたいなんて、可愛い~!
そんなこと言われたら、会いたくなるでしょ!』

「あ、ごめんなさい!」
『ううん!でも、嬉しい!
どう?僕の声が聞けて嬉しい?』

「はい…!
あ、あの…律希様」
『ん?なぁに?』

「私は、律希様のこと……」
『ん?』
「す…」
『ん?』

「好き…です。
すみません、恥ずかしくて言えないだけで、律希様のこと、好きです」

『………』
「………」
『………』
「……あの…律希…さ、ま…?」

『何これ……』
「え?」
『狡いよ…』
「え?」

『そんなこと言われたら、もう……本当に、我慢できない…!!』
「え?え?ご、ごめんなさい!」

『違う!そうじゃない!
僕の方が舞凛を好きだから、会って抱き締めてキスをして、抱きたくなるってこと!
嬉しい!
もっと言って?
“好き”って!』

「好きです…」
『もっと!』
「律希様、好きです」

それからしばらく“好きです”と言わされ、漸く通話を切った舞凛。

ふぅーと息をつき、ソファにゴロンと寝転んだ。
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