契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「その顔だと覚えてくださっていたんですね。よかった、それなら話が早い。……弁護士と交わした約束もお忘れではないでしょう？」

　いつもよりワントーン低い彼の声は別人のように冷たくて怖い。

「娘に会いに来ただけではなく、金銭を要求し、さらには娘の職場で問題を起こすなんて…。…。あなたはそれでも凪咲の父親か？　父親なら娘の幸せを第一に考えるべきだろっ。なぜ傷つけ、悲しませる!?」

　誠吾さんの怒りがヒシヒシと伝わってきて、目頭が熱くなる。だって誠吾さんは自分のことのように怒ってくれているだから。こんなの、嬉しくてたまらない。

「お義母さんのことだってそうだ、心から愛した人だから結婚し、凪咲を授かったんですよね？　あなたに少しの良心が残っているのなら法的な場で公正な判断をしていただき、その後は真面目に生きて凪咲とお義母さんの幸せを願ってください」

　彼の言葉が胸の奥深くに突き刺さり、波が溢れて止まらなくなる。

「ですがたとえ凪咲が許したとしても、俺は一生あなたを許さない。凪咲がどんな思いで過ごしてきたかっ……！」

　今にも殴りかかりそうな勢いの誠吾さんを慌てて引き留めた。

「誠吾さん、もう十分です！」

　彼の背中にしがみつき、必死に止める。

「さっき自分の思いをすべて父にぶつけることができました。それに誠吾さんが言ってくれた言葉にどれだけ救われたか……。私ならもう平気です」

「凪咲……」

　どんなにつらいことが起きたって、こうして味方でいてくれる誠吾さんがいるなら、どんなことも乗り越えることができるから。

　それに今回は父に臆することなく最後まで立ち向かうことができた。それもすべて誠吾さんのおかげ。

　あなたがいれば、私はいくらでも強くなれるんだ。
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