ABYSS〜First Love〜
ユキナリ

sideB-3

リオと過ごしたこの海の最後の5日間は生涯忘れることのできない日々だった。

リオは全身全霊でオレに愛を捧げてきた。

リオといると調子が狂う。

「好き」と言わないのはオレがリオに出来る最大限の愛だとお前はわかってるんだろうか?

その言葉を口にしたら後戻りできなくなる。

オレがリオを愛したら
リオはきっと不幸になるから。

リオと何度もキスしたが、身体は触れさせなかった。

それを知ったら自分がどうなるのか怖かったし
リオがどうなるか知るのも怖かった。

それでも手を繋いだりキスしたりすると
オレはリオが欲しくなった。

その腕にめちゃくちゃにされたいと思ったり
優しく抱きしめられたいと思ったり
気持ちはいつも揺れていた。

男にそう思う自分も信じられなかったが
何より自分の身体が信用できなかった。

リオに少しでも触れられると全てがいいと思える。

何も考えずにリオを抱きしめたかったし、抱きしめられたかった。

人にこんな感情を抱いたのは初めてだった。

「ユキナリ、波乗りに行こう。」

オレとリオの朝は早い。

リオに起こされてオレは眠い目を擦りながら仕方なく目を覚ます。

今日は夕べの酒が残って身体が重かった。

それでもリオと波に乗れるのはあと僅かだった。

朝からリオはオレの髪に触れ、キスしてきた。

オレはリオを押し倒したい気持ちを堪えて
波に乗る支度を始めた。

海に行くまでの距離リオと手を繋いだ。

まだ誰もいない夜明けの街は2人だけの世界だった。

自由に手を繋ぎ、目が合うとキスをした。

リオに好きだと言いたかった。

オレの代わりにいつもリオがオレの名前を呼んで
「好きだよ。」
と言ってくれた。

「うん。」
オレはいつもそう返すだけだ。

オレは狡くて臆病だった。

リオの身体に触れられないのはその罰だ。

その日は調子が出なくて早く海から上がった。

海の家のオープンの支度を早くから始めた。

リオが手伝ってくれて
みんなが来る前に準備は完了した。

「お、早いな。」

オウスケさんがやってきて
準備の整った店を見て喜んでいた。

「今日からお盆休みの人結構来るんでしょ?」

「だといいけどなぁ。」

近年の休暇は分散型とはいえ、やはりこの時期は書き入れ時だった。

ここ2年は流行した疫病のせいで
たくさんの海水浴場が閉鎖され、
去年こそ地方の小さい海水浴場の近くで働ける場所を見つけたが客が来ず、予定より早く引き上げることになった。

一昨年はバイトも見つけられなかったほどだった。

今年は2年ぶりにこの海も遊泳できるようになって海の家も建てることが出来たが客足はまだそれほどでも無い。

例年に比べたらまだまだらしいが
それでも今年は営業出来るだけずっとマシだろう。

この期間はリオも手伝いに入る。

あくまでも忙しかったら手伝うと言う話だったが
その日は結構忙しかった。

リオの家は割と裕福でバイトなんかしなくても親が金をくれるそうだ。

リオが海の近くに1人暮らししたいと言うのもすんなり認めてくれたらしい。

でも聞いた話だと
リオの親は再婚でリオにはかなり歳の離れた妹が居てリオは口にはしないが居心地が悪いのではないかとミカさんが言ってた。

そういえばお盆にも家には帰らないと言っていた。

聞けばお正月もアキラさんの家で過ごしたと聞いた。

リオは案外孤独だった。

オレはそんなリオを置いて居なくなることが辛かった。

アキラさんが側にいてくれることに感謝したが
リオがいつかアキラさんと間違いを犯しそうで
素直には受け入れられなかった。

今まではオウスケさんが居たから良かったものの
リオは大人になり、
アキラさんはフリーになった。

リオはどんどん魅力的になっていく。

アイツは知らないだろうけど
アイツが波に乗る姿に沢山のサーファーが憧れ
海に来た女の子の心を鷲掴みにしている。

オレなんかにこだわらなくたって
いくらでも素敵な恋愛ができる事をリオは気がついてない。

オレだって手放したくはない。

ここでリオと暮らせたらと
何度も考えたが
オレにはどうしても戻らなきゃいけない理由があった。







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