ABYSS〜First Love〜
ユキナリ

sideB-8

ある日、珍しくミカさんが店にやって来た。

ミカさんはアキラさんに男の恋人がいると知り、1年前にこの街の漁師と結婚した。

オレの店はミカさんの実家の酒屋からお酒を注文してるので
ミカさんはご主人とたまに飲みに来てくれる。

その日はアキラさんも来てて
ちょっと懐かしいメンツが揃った。

「アキラさん、ユキナリもちょっとこれ見て。
リオって覚えてる?」

覚えてるも何もオレは1日だってリオを忘れたことなんか無い。

「これリオだよね?」

ミカさんはsnsでリオを発見した。

「#リオくんそっくりって…ほら、この子そっくりじゃなくてリオだよね?」

それは湘南の海の近くの居酒屋で
店内で女の子がリオと撮った写真だった。

リオは相変わらずモデルとは思えない愛想のない顔で彼女の写真の中に居た。

「リオだよ!ってこれどこ?
ユキナリ!リオに逢いに行こう!」

アキラさんはリオを見つけてテンションが上がってた。

何も知らない恋人は
リオを見て不機嫌になる。

「誰?リオって?」

「知らない?サーファーでモデルでここの出身でオレの大切な弟みたいな…存在?」

「弟って…絶対何かあったでしょ?」

「なんかあったのはオレじゃなくてコイツ!」

アキラさんがオレを指さして
ミカさんがビックリしていた。

「えーっ!?そうだったの?」

「あー、このイケメンマスターならわかる気がする。」

アキラさんの恋人は時々オレに色目を使う。

アキラさんはオウスケさんの頃と違ってヤキモチも妬かずだいぶ穏やかになった。

オウスケさんほど相手のことが好きじゃないのかもしれないが
まぁ、オウスケさんと別れた頃の酒浸りのしょうもないアキラさんに比べたらいくらかマシだ。

「マジで逢いに行けよ。」

アキラさんはそう言ったけどオレはまだリオに逢う心の準備が出来てない。

「いや、リオは逢いたいって思ってないんじゃないかな?」

その時、ミカさんがふと思い出したように言った。

「昔、ユキナリがシーズンオフのこの街に一人で来てたことあったよね?

あれってリオに逢いに来てたの?」

オレはあの時のことを鮮明に憶えていた。

リオに逢いたくてどうしようもなくて
電車に乗り、リオのサーフィンしてる姿を影から見て声もかけずに帰った日だ。

「いや、マジで海を見に来ただけですよ。
リオとは逢いませんでしたし…
なんか生活に疲れちゃっててここの海が恋しかったんです。」

オレは嘘をついた。

この気持ちは他人には理解できないからだ。

リオが死ぬほど好きだなんて誰にも言えないし言いたくない。

リオ以外は理解できないから…
いや、リオすら理解してないかもしれない。

だからリオはオレを捨てたんだと思った。

オレが好きならリオはモデルを辞めた時に逢いに来たはずだ。

リオは自由奔放で自分勝手で
あれだけ好きだって言いながら
簡単にオレを諦めた。

オレはそんなリオが心のどこかで許せないままだった。

だから所在がわかったところで逢いになんか行ってやるもんかと思った。

「お前が行かないならオレが迎えに行くぞ。」

アキラさんがそう言ったけど
ヤキモチ妬きの恋人が必死で止めていた。

「ここに帰ってこないってことは…
誰にも逢いたく無いってことですよ。

だから放っておいた方がリオは気が楽だと思いますよ。」

もう絶対に追いかけない。

アイツが先に好きになったのに
今はオレのがアイツに未練タラタラで
オレは1日だって忘れたこと無いのに
こんな気持ちにさせたまま居なくなるなんて
本当に酷いやつだと思った。

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