「俺は美波に謝らなければならないことがある」

私の目を見ながら修吾さんは話し出した。

「俺は美波に一目惚れして、やっと手に入れたんだ」

「一目惚れ?」

「メリディアンの前で転んでただろう。あの時ボールペンが落ちてて、慌てて駅まで走ったんだ。その時に泣きながら不安そうにしていたのがいつまでも心に残っていた。忘れられなかった」

彼があの日のことを話し出して驚いた。
確かにあの日の転んで助けてもらったお礼に金平糖をあげたのは覚えているがそれ以上の記憶はない。

「駅まで行ったが声をかけられなかった。後から食べた金平糖はいつまでも美波のことを思い出させて、それで店まで何度も行ったんだ。でも声がかけられなくて、接客してる美波を見ては帰っていたんだ。ようやく声がかけられたのは何度目だったか……」

「え?」

「ごめん、気持ち悪いよな? 後から考えたらストーカーみたいだなと自分でも思って、それでやっと声をかける決心がついたんだ」

私が何も答えられずにいると自嘲ぎみに笑っていた。

「情けないんだけど美波にどうしたら声がかけられるか悩んだいたらチャンスが訪れた。はなみずき製菓の話を聞き、美波と接近できると思った。こうして美波との結婚をこじつけたって訳なんだ」  

私は頷いた。

「美波が家にいて、一緒にご飯を食べたり過ごすだけで幸せだった。パーティーに連れて行くまでも幸せだったが、誰にも美波を見せたくないと独占欲に駆られた。こんなこと今までは一度もなかった。美波にだけは特別な感情が動くんだ。今までの恋愛は何だったのかもわからない。美波しか欲しくないと止められない」

修吾さんの手は少し汗ばみ、震えていて緊張が伝わってくる。

「美波の靴擦れにテープを貼ってくれただけで耐えられなかった。美波の足に触れるなんて許せなかった」

「パーティーに誘われなくなったのは私の粗相が原因なのでは?」

「違う。また同じことがあれば俺の理性を保つ自信がないからだ。それなのに美波は気にして離婚を持ち出してきたよな。それをまた俺は都合よく利用した。美波とご飯を食べたりするだけじゃもう満たされなかったんだ。体もつながりたいと……」

あ……
私はそれを聞いて喉の奥がぎゅっと締め付けられた。

「ごめん。ちゃんと最初から付き合って欲しいと言えばよかった。ひとつ歯車が狂い出すとずっと重ならなくなってしまった。美波とは最初から離婚なんてするつもりはなかった」

「修吾さん……」

「俺は最初から美波のことが好きだ。みっともなく嫉妬をしてしまうくらいに、もどかしいて何も手につかなくなるくらいに好きなんだ」

「私も修吾さんのことが好きなんです。好きだからあなたの足手まといになりたくなかった。けれど体を求められて嬉しかった。あなたと同じ時間を共有することができて幸せだった」

「美波? 俺の言葉を聞いても嫌にならないのか?」

私は首を振った。

「私だけが修吾さんを好きなんだと思っていたんです。だからむしろ嬉しいんです」

私の言葉を聞き、修吾さんは私を抱きしめてきた。

「美波、好きだ。愛してるんだ」

耳元で彼の声が聞こえ、その声が私の胸を締め付ける。

「私も修吾さんが好き。愛してる」

彼の背中に手を回し、本当に彼の腕の中にいることを実感した。
彼の唇が私の額に下りてきた。
瞼に、頬に、鼻に、徐々に下りてくるとやっと私のと重なり合った。