十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
プロローグ
これは、まだ私がとても小さかった頃の話。
初めて宝石を見たのは、家のリビングでのこと。
大好きなアニメを、プリンを食べながら楽しんでいる時、母が突然、私の目の前に小さくて可愛らしい箱を持ってきた。

「美空、見てごらん」

パカっと開けると、キラキラ光る、大きい石がついた、小さな輪っかが刺さっていた。

「キラキラ、きれい」
「指輪って言うのよ」
「ママ!指輪きれいね!!」

私はまだ当時、言葉を覚えたて。
だから、あの時の感動をきちんと正しく言うことはできなかったけれど、あの日の衝撃は覚えている。
こんなにも綺麗なものがこの世にあるのかと、私の世界がひっくり返ったから。

「美空、手を出してごらん」

私は、利き手である右手を出すと、母は箱から指輪を取り出し、私の親指にはめてくれた。
まるで自分の指に星が降ってきたかのように思えて、私は飛び上がるほど嬉しかった。
そんな私を、最初は微笑みながら見ていた母だったけれど、しばらくしてから、初めての指輪にはしゃいでいる私を抱きしめてきた。

「ママ?どうしたの?」
「何でもないわよ。美空」

明らかに、母は泣いていた。
何で私を抱きしめながら泣くのか、私には分からなかった。

「ごめんね、美空」
「どうして、ごめんねって言うの?」
「……美空が、花嫁さんになるのを見たかったな……」

母はそう言うと、私の親指から指輪を抜き取ってから、箱にそっとしまった。

「花嫁さんって?」
「大好きな人とずっと一緒にいるって決めると、女の子は花嫁さんになれるの」
「じゃあ、パパとママとずっと一緒にいるから、美空はもう花嫁さん?」
「そうじゃないのよ、美空」
「違うの?」
「ママはね、パパと出会って、この指輪をもらって、花嫁さんになって、美空のママになれたの」
「ふーん?」

母が何を言っているのか、この時の私にはちっとも分からなかった。

半年後、母の体は冷たくなった。
何度も母に呼びかけても、抱きしめても、話しかけてもくれなかった。
体の中の悪いもののせいだと、父は泣きながら教えてくれた。
母は、細長い箱の中に入れられた。
あの日、母にはめてもらった指輪も箱に入れられた。
燃やされて、母も、星のように輝いていた母の指輪も、あっという間に姿を消した。

そしてさらに数年後。
私が小学校に入り、アクセサリーに興味を持ち始めた頃、父が私に教えてくれた。
あの日、母が私にはめさせた指輪についていたのは、ダイヤモンドと言う宝石だったこと。
母を一生愛すると誓った父が贈った、婚約指輪だったこと。
ダイヤモンドには、永遠の絆と言う意味があること。
母は、私が誰かと永遠の絆を結ぶところを、何よりも、誰よりも見たかったと言っていたこと。
そして父にとって、その指輪が特別だからこそ、母と一緒に燃やしたのだと。

「天国でも、ずっとパパとの絆も、大事にして欲しいと思ったんだ」

父は泣きそうに笑いながら、そんな風に話してくれた。
この日、私にとっての指輪は、簡単には身につけることは許されない、特別な憧れになった。
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