When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
わからない心
 恵那が目を覚ますと、ソファではなくベッドの上で布団に包まれていた。寝室の横のドアからシャワーの音が響き、泰生がそこにいることは明白だった。

 もういいや。ここから出ようなんて考えないようにしよう。仕方ないから、二日間だけは泰生と過ごしてあげる。

 たとえ体だけの関係だっていいじゃない。気持ちが伴っていないことは嫌だけどーー好きな人に抱かれることは嫌じゃない。

 シャワーの音が止まる。もう少ししたら出てくるだろう。逞しくて魅力的な体を想像して、急に恥ずかしくなる。自分が今でもこんなに泰生を好きなことに驚いた。

 その時になって、不倫相手との修羅場を思い出した。泰生がスマホを隠してるから、あの後何かがあったとしても知る由もない。でも本当はその方が幸せなのかもしれない。だって自分勝手な男に振り回されて、悪者扱いされているんだから。

 ドアが開いて泰生が出てくると、恵那は掛け布団を体に巻いて、なるべく泰生の顔は見ないようにしながら浴室に入ろうとした。

「私もシャワー借りるね」

 しかし腕を掴まれ、動きを止められてしまう。なんだろうと振り返ろうとしたら、泰生が恵那の首の後ろにそっと触れた。

「何?」
「……傷がある。痛むか?」

 いつの傷だろうか。恵那は首を横に振る。泰生は眉を寄せてその傷を見つめてから、傷口にキスをした。思わず恵那の体が震えた。

「あの男と女……クソっ」
「なんで泰生が怒るのよ。意味わかんない。とりあえずシャワー浴びさせて」
「あ、あぁ、悪い」

 泰生の手から解放されると、恵那は布団を彼に投げつけドアを閉めた。 裸のまま浴室に入り、シャワーを出す。少し熱めのお湯が体に心地良い。

 今のは何だった? よく考えれば、きちんと泰生に聞かないと理解出来ないことばかりだった。

 つい気持ちよさに流されてしまったけど、このままだと二日間セックスだけして終わってしまうかもしれない。

 そこまで考えて頭を横に振る。そんなのダメよ……もう戻れなくなる……。泰生を今も好きなことは理解出来ても、彼の気持ちが欲しいだなんて危険過ぎる。

『不倫なんか似合わないってことを、俺がわからせてやる』

 あれは一体どういう意味だったのだろう。泰生は何がしたいの? ーー恵那はシャワーを浴びながら、今朝の熱い交わりを思い出し、体が疼くのを感じた。
< 17 / 34 >

この作品をシェア

pagetop