義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
「お兄ちゃん……婚約の話があるんじゃ……ないの?」

それは兼ねてより義父から聞いている話だ。丞一には早く身を固めてほしい。婚約者候補を考えている、と。
義父は私を家族として、相談するような気持ちでこの話をしてくれたのだろうと思う。

「大学時代から親父には言われているが、俺はすべて断っている。そして、好きな女がいることも伝えてある」

近くにある義兄の顔。大好きなその顔と、懐かしくて胸が苦しくなる香り。
もう一度キスを求められたら抗えない気がする。

「気づかなかったとしたら、おまえも相当鈍感だな。俺は子どもの頃から、ぼたんしか見ていない。おまえと義兄妹になる前から、ずっと」
「嘘……だってお兄ちゃんは私のことが嫌いでしょう?」
「そんなわけがあるか。おまえをいつか妻に迎えるために、俺は……」

義兄の気持ちが本当なら、この同居の意味が変わってくる。
だけど、そんなこと、私には急に信じられない。義兄はずっと私と母を避けていたし、どうしていきなり私を求めるようなことを言い出したのかわからない。

現に今も、強引でどこか冷徹に私を戒めている。言葉は厳しく、表情も愛の告白のものではない。

「お兄ちゃん、駄目。私なんかじゃ駄目だよ」

私はキッと義兄を睨むように見据えた。
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