独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
「瀬尾との関係に口出しはしない。ただ事情を知った今でも俺に関わって欲しくないし、君の上司に取りなすつもりはない」
「私の気持ちは受け入れて貰えませんか。今は瀬尾さんではなく、神谷さんを想っています。だからと言って奥様との関係を邪魔する気はないんです」
「何を言われても、受け入れないと断言する」
はっきり断ったからか美帆の顔に絶望が浮かぶ。
「そんな可能性もないなんて……仕事も駄目になって、私は何もなくなっちゃった」
「自業自得だと思うが」
「でも私は瀬尾さんの言う通りにしただけなのに」
美帆は両手で顔を覆った。
彼女からすると晴臣の態度が冷酷に感じるのだろうが、しかしここで意思を示しておく必要があったのだ。
「君の上司に瀬尾の件は話しているのか?」
「いいえ。プライベートのことですから」
「そうか。だが揉めるようなら話すことも考えた方がいい。プライベートとはいえ取引先の社員同士間のトラブルは放置できないからな」
瀬尾の不始末は神谷ホテルにとってマイナスだ。
もしかしたら先方からクレームが入る可能性もあるが、美帆に黙っていてくれなど言うつもりはなかった。
彼女も傷ついており、ある意味被害者でもある。
晴臣自身がフォローするつもりはないが、誰か味方が必要だろう。
項垂れている美帆に別れを告げて席を立った。
余裕を持って出て来たが、思いがけない出来事で次の予定の時間が迫っている。
晴臣は急ぎ足で駅に向かった。