卒業式の晩、私は青髪に空色の瞳の従者を呼び出しました。

「チルチル、居るかしら」
「はい」
「うわ、どこから出てきたのよ」
「御身の後ろから」

 そう言って、青い髪の従者は優しげに微笑んでいます。

「気配を消しすぎて、段々暗殺者みたいになってきたわね……」
「よく分からないけど、褒められてないってことだけは分かったよ」

 不満そうにしているチェレスティーロに、私はふふっと微笑みます。

「今日の、ちゃんと撮っているわね?」
「もちろん」
「じゃあ貸して」
「あ、ちょっと待っ――いてっ」
「え?」

 チルチルの持っている映像装置を手に取ると、急にチルチルが左腕を押さえました。

「え、何。ちょっと見せて」
「なんでもねーよ。え、お嬢、俺の裸見たいの?」
「バカなこと言わないで!」
「ちょっと待っ……いたたたた」

 無理矢理上着を剥ぎ取ると、チルチルは左腕に包帯を巻いていました。若干血が滲んでいて、私は慌てます。

「ちょっと、何よこれ!」
「いやー、撮影中に王家の影に見つかってさ」

 チルチルは、俺だから逃げてこられたんだぞーと自慢げにしています。

 それはそうかもしれません。
 チルチルの潜伏・情報収集能力は、元王家の影の先代執事仕込みなのです。
 そのチルチルが、怪我をするなんて。

「危ないことはしないで!」
「でも、この映像がなかったら、王家がお嬢にどんな罪をなすりつけてくるか」
「それでもやめて! チルチルが怪我するくらいなら、こんな映像なんか、囮に投げ捨てていいの」

 珍しく憤慨している私に、チルチルは目を瞬いています。

「えー、何それ。お嬢、自分の進退より使用人の方が大事なの?」
「チルチルが大事だって言ってるの!」
「ふーん。それって、俺に惚れてるみたいじゃん」
「はぁあ!?」

 なんだそれ。
 この男は、急に一体、何を言い出しますの!

「訳分かんないこと言わないでよ!」
「あーあーそうだよな。厚い友情ってやつだよな。分かってるよ、カル」
「男みたいな愛称はやめて」
「女みたいな愛称だったら良い訳?」
「えー」
「嫌なのかよ!」
「別にいいけどさ、いつ呼ぶのよ」
「二人だけのとき?」
「私、チルチルにお嬢呼びされるの好きなんだよね」

 なんか安心するし、と追加で呟くと、私の青髪の侍従は珍しく顔を赤くしています。

「わ、レア顔! なぁに、そんなツボだったの?」
「うっせー、黙れ」
「あんたのお嬢様に向かって、酷いやつねー」
「……」
「もーいいわ。ほら、ちょっと腕貸してよ」
「何」

 手負いの小狐みたいに腕を隠すチルチルに、私は笑いながら手を差し出しました。

「包帯、巻き直すからさ。治療具出して」
「道具用意すんのは俺なのかよ!」
「うん。だって私、あんたのお嬢様だもん」

 胸を張る私に、なんだかしおらしくなったチルチルは大人しく治療グッズを持ってきて、腕を差し出してきます。

 私は包帯を解き、薬を塗り直して、新しいガーゼを当て、包帯も新しくして巻き直しました。

「ほら、できたよ。もう部屋に帰って安静にしてて。怪我が治るまでしばらく休んでいいから。お祖父様に言っとく」
「……」
「なによぉ、言いたいことがあるなら言いなさいよ」

 私が口を尖らせていると、急にチルチルが私の頭をくしゃくしゃと撫でてきました。

「ちょっと、何すんの!」
「キャロル、ありがとう」

 耳元で小さく呟かれた言葉に、思考が停止してしまいます。

 そんな私を見たチルチルは、くすりと笑うと、そのまま部屋を出て行ってしまいました。

 な、な、な、何よあれ。

 ちょっと、その、珍しいからびっくりしたじゃないの!

 手を頬に当てると、なんだか焼き芋みたいに頬がカッカと熱を持っていました。

 私、熱でもあるのかしら。

 早く寝てしまおう。

 こうして私は、訳の分からない胸の高鳴りに蓋をしたのです。