たぶんあなたの子です? 認知して下さい!
✴︎


⋯⋯ 二人は門の前で睨み合っていた。
女性は赤ん坊を抱いている。
もう一人は、その門の中から出てきたこの家の男性。


✴︎


「は? 」


とインターフォンに答えて中から出てきた男性は、しばらく黙りこくった後、真顔で、


「思い当たりがなければ、子供なんて出来ないだろう? 」


と静かに言った。


背の高い黒髪の、付け入る隙のなさそうな感じの若い男性。
30才になるかならないか、と言った感じ。
端正な顔は冷静さを失わず、ただ女性と腕の中の赤ん坊を見下ろしていた。

そっか。
思い当たりか。
なければ、子供ができるわけがないよね〜。

なんて、そんなわけない!
はっきりと否定をされ、しばらく続く沈黙の後、“賢斗”さんは「警察に電話しようか」と言いながら携帯を取り出そうとした。


「待ってください! 」


顔色ひとつ変えないこの人、妊娠させた相手の顔を覚えてないとか⁈
私の顔を見れば、一瞬で驚くだろうと思っていたのに!
誤魔化してるんじゃない⁈
警察って言えば脅せると思ってるとか!


「DNA鑑定しましょう」


そういうと彼はおしだまった。

ほら、やっぱり思い当たるんだって考えた。
チラリと門の標識を見ると、先程しっかり確認したが、やはり〈若月賢斗〉と縦書きで立派な表札がついている!

若月賢斗!

じーっと睨み合う。
自分が正しいと思っていなければ、目を逸らしてしまうだろうといった睨み合い。
どちらも顔を覚えていないという奇妙な状況。
でもどちらも正しいと思っているから引かない。

揺るぎない強い彼の視線に、あれ? この男性は本当に思い当たりがないのかもしれない、とふとよぎってしまったのは彼女の方だった。
弱気が広がる。
全く動じない彼の目。

確かにそんな人に見えない、強さ、真面目さ。
この人、この子の父親のはずで⋯⋯ ?
えーっと、どうしたらいい⋯⋯ ?
色々な考えが頭を回って、視線が揺れたのは、女性の方⋯⋯ 。

迷いながら、しかしこの現実、引くことはできないのだった。

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