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⋯⋯ 彼は冷静に彼女を見下ろしていた。


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彼女の必死さ。
言っている内容はおかしくても、彼女が正しい事だと思っている信念だけは確かなのだろうと彼は思った。

彼女の、もう後がないといった感じの顔。
しかし、そこに迷いを見てとった彼は少し可哀想に思った。

自分の方に確実に理があると思えたからだ。少なくとも、自分に覚えのある事ではない。
何やら彼女なりに理由があって、こんな無茶な言いがかりをしているのなら気の毒な事だ。

彼女にこんな行動をさせている出来事を何とかしてやりたいものだ。
彼女も赤ん坊も、困りきって、こうしているのだろう。


「DNA鑑定⋯⋯ ね⋯⋯  」


と彼が呟き、それから、フッと静かに笑った。
2人の間に漂っていた緊張感も緩む。
目にからかうような甘さが漂った。
彼は声を落として、


「それにしても、お互いに、した相手の顔もわからないのに? 」


とニヤリと笑った。
とたんに彼女が慌てた。


「えっと、えっと、暗かったから? ぼんやり? 」

「はっ、じゃ今すぐやってみるか? 家に入って。すぐ脱げよ、ためせばいい」

「はい? 無理ですよ‼︎ そんな‼︎ 知らない人と‼︎ 」


と叫んでしまった。


「なんだ、子をなした相手とできないの? 」

「あっ、」


しまった。この人と、この子を作ったはずだった⋯⋯ 、と彼女の顔はみる間に赤くなり困り顔になった。可愛いものだ。
こちらを疑っていたくせに。


「いえ、あの、えっと、、、」


困ったところで、タイミング良く赤ちゃんが、うぎ、うぎ、と言い出した。
緊張感に割って入った赤ちゃんの声は、一気に現実感を2人にまざまざとつきつけた。


「⋯⋯ 誰の子? 」


と男性が冷静に聞いた。


「えっと、あなた? 賢斗さんの? 」


[うぎゃ、うぎゃ、うぎゃ、]


赤ちゃんが泣き出す。
彼女だって泣きたいぐらいだ。


[うんぎゃぁぁぁぁぁ]


ついに大声で泣き出した!
赤ちゃんの声って大きいんだ。
ご近所の皆様〜!ってかんじ。
家の前で押し問答していたので、通行人がちららちらと見て行く。

物好きそうな近所の年配の女性が、コソコソと話している。


「とにかく入るんだ」


と男性が門を広く開けた。