✴︎✴︎✴︎2✴︎✴︎✴︎


⋯⋯ 赤ちゃんが泣くので、男性は門の中に女性を入れた。


✴︎


「じゃ、賢斗の子なの? 」

「はい」

「賢斗はオレの兄だ」

「! 」

「オレは若月秀斗(しゅうと)

「⋯⋯  」

「しかも、全然違うんだけどな、俺たち兄弟。体格も、声も」


門を入ると石造りの道があり、大きくなり過ぎたツツジが少々鬱蒼としてしまっている広い日本庭園が左手に広がっていた。
真っ直ぐ道を進む先に、平家の屋敷の玄関が見えている。

その広い敷地で立ち話。

弟だと言う若月秀斗は、かなり背が高くて、彼女を上の方から見下ろしていた。
しっかりと目を合わせて理論整然と諭すように話す。彼女は可哀想なぐらい困った顔をした。


「えっと、間違えました? 」

「はっ、」


と彼は手で髪をかきあげた。


「だから間違えようがないんだよね。似てないから」

「⋯⋯ スミマセン」


非を認めたようなものだ。
しかしながら、赤ん坊賢次の存在がなくなるわけでもなく、まさに、ここに1人の人間が生まれているのだ。
連れてくるにも、生まれなくてはならないし、生まれるには仕込まないといけなくて⋯⋯ 。
そんな言い方をしなくても、赤ちゃんがいるのだ。


「で? 」

「お兄さん? 」

「に? 」

「はい? 」

「だ、か、ら、」


とついつい、声がキツくなる。
なんなんだこの女性は。
賢斗の子なんだろ?
母親だろうに、この現実感の希薄さは何なんだ、と秀斗は思った。
彼女の方こそ、まだ20才そこそこだろう。
柔らかい白い頬は、抱いている子供と大差ないように思う。
可愛らしい華奢な体つきで本当に母親なのか?
細い腕で抱く子は、やけに大きく見える。
どこから赤ん坊を連れてきたんだか。

よほど赤ん坊の存在の方が現実的だ。

そう現実。
赤ん坊で両手が塞がり、秀斗の前に立ち尽くす彼女。
ぐずっていた子がまた泣き始める。
秀斗は、


「中で世話してやればいい」


と言って、先に歩き出した。
玄関の古いすりガラスと木の格子の引き戸をカラカラと開け、式台と玄関の上り框の段差に注意するよう促した。

玄関から暗い廊下を奥に行き、左手の襖を開けたら、一面ガラス窓、縁側からぱぁっと庭が一面に広がり、真ん中が仕切れるが開け放した続きの広い明るい座敷。

彼女は「すみません」と謝りながら赤ん坊を寝かせて、オムツが濡れていたので取り変えはじめた。