✴︎✴︎✴︎3✴︎✴︎✴︎


⋯⋯ その家の中は


✴︎


広い屋敷だった。
子供と与えられたのは一軒の家敷。
最初に通された座敷のその家。
敷地内にはもう一軒新しい邸宅が隣にあり、秀斗はそちらに1人で住んでいるそうだ。

ここには以前は祖父母が住んでいたらしい。
父親と母親は、数年前から近くでマンション住まいをしており、この広い敷地はほとんど使われていなかった。

空き家と言われどんな状態だろうかと思ったが、すぐにでも住めるほど整っている。器具はまめに取り替えているらしく、全てが最新で揃っていた。

しかし元は古い日本家屋だ。
屋根瓦の重みを感じ、濃い空気には以前に住んでいた人達の痕を感じるようだった。

だだっ広い日本間の畳の部屋。
二間が真ん中で襖で仕切れるが、いつも開けてある。本作りの床間に、重そうな紫檀の和机、綺麗に掛布が整えられた座布団。

反対のもう一間にはお仏壇がある。

その二間は広く窓のある縁側に面していて、窓の外は隣家が見えないぐらいに鬱蒼とした日本庭園が広がっていた。

二間の隣にはさらに襖で奥はわからない。まだまだ部屋があるようだ。

反対側の襖から出ると廊下になっている。真っ直ぐ行った左に風呂場やさらにまだ和室があり、隣にリフォームされたと言う元は土間の台所、そこから屋根付きのたたきがあり、秀斗の住むもう一軒のある屋外に続いている。

襖から出た右にも廊下が、トイレとリフォームされたらしい新しい洋間が二部屋を左手に、昔のままの古いガラスと格子をはめ込んだ引き戸の表玄関まで続いていた。洋間にはベットがあり、そこを寝室として使うよう言われた。

彼女は部屋に通され、ぼんやりと座り込んだ。
賢次も疲れたのか、ぐっすり寝ている。

部屋には静かなしっとりとした穏やかな空気が満ちている。

気持ちいい。
安全に囲まれた場所。

いくらでも出してやる⋯⋯ だって。
久しぶりに肩の力が抜けて、彼女はふと気が遠くなりそうになった。

洋風にリフォームされたサッシの出窓から、太い幹が正面に見えた。さっき塀の外から見えた桜の古木だった。
広く張った枝の影が揺れ、風が通るとサワサワと優しい音がする。

こんな風に家に上がり込んでしまっている。

何にも解決しないまま、知らないお屋敷にゆっくり座っている。

こうなるまで彼女は想像もしてなかった。
無理やり賢次を認知させるのかなとか、けんかみたいになって揉めるのかなとか、最悪追い出されるんだとばかり思ってた。

どうなるんだろう、これから。

彼女は賢次と2人で行くところも、出来ることも何もない。
しばらくして秀斗が赤ちゃんの必要なものを一揃え買ってきてくれて、秀斗と目があったら、体中の力が抜けるようにほっとした。