最悪の邂逅となった見合いの日より、話はひと月前にさかのぼる。
 九月初旬。降り注ぐ日差しにはまだ夏が色濃く残っていて、清香は白いハンカチで額ににじむ汗をぬぐった。

 今日は平日だから、銀座の街はビジネスマンとOLであふれている。
 大通りに面した赤茶色の壁面のクラシカルな建物。そこが目的地である『榛名画廊』だ。清香の父が経営する老舗の画廊で、水墨画の巨匠とうたわれた清香の祖父、榛名清栄(せいえい)の作品をメインに、海外の有名作家や新進気鋭のアーティストの作品なども取り扱っている。

「久しぶり、お父さん」
「あぁ、来たか」
 奥行きのあるギャラリーの手前にある受付に清香の父、琢磨(たくま)がいた。琢磨は画廊の顔となるべき場所に飾られた絵画に視線を向けつつ自慢げに笑む。
「見ろ。いい作品だろう。今、NYで一番評価されているレガルトの一番弟子の作品で――」