秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
終章
 一年後、ロンドン。
「あ、ロンドンバス! 本当に二階建てだぁ」
 前面にユニオンジャックあしらった真っ赤なバスが、洒落た街並みを走り抜けていく。ロンドンを訪れるのは初めてなので、見るものすべてが新鮮で清香は大はしゃぎだ。

 志弦に肩車をされている碧乃のほうが、ずっと落ち着いている。
「大英博物館、ナショナルギャラリー、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館も外せないし。はぁ、興奮しすぎて心臓がもたないかも」
 さっそく芸術オタクぶりを発揮していると、隣の志弦が満足げにほほ笑んだ。
「喜んでもらえて、なによりだ。清香がロンドン初めてとは意外だな」
「パリとロンドンを巡る予定の旅行をしたことはあるんですが、ルーブル美術館にどっぷりはまってしまって……結局、十日間の日程すべてをルーブルに費やしてしまいました」

 すべてを見ようと思ったら五日はかかるといわれる広大なルーブル美術館。作品ひとつひとつをじっくりと鑑賞したいタイプの清香には、十日でも全然足りないくらいだった。
「なので、オペラ座もノートルダム大聖堂もちらっと見ただけでした」
 軽く首をすくめると、彼は声をあげて笑う。
「君らしいな。そうすると、今回は大英博物館で足止めかな」
「だ、大丈夫です。今回はちゃんと碧乃も楽しめる旅にしますから」
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